一 商法第四二条により表見支配人の権限に属する「営業ニ関スル行為」には、営業の目的たる行為の外、営業のため必要な行為をも含むと解すべきであつて、営業のため必要な行為にあたるか否かは、当該行為につき、その行為の性質の外、取引の数量をも勘案し、その営業のため必要か否かを客観的に観察してこれを決すべきである。 二 支店長のなした特定の行為が、商法第四二条、第三八条にいう「営業ニ関スル行為」にあたらないことを理由として、直ちに民法第七一五条にいわゆる「事業ノ執行ニ付キ」なされた行為にもあたらないと断定することは違法である。 三 不法行為者に所有権侵害の故意があるというためには、特定人の所有権を侵害する事実につき認識のあることを要するものではなく、単に他人の所有権を侵害する事実の認識があれば足りる。
一 商法第四二条による表見支配人の権限の範囲 二 商法第四二条、第三八条にいう「営業ニ関スル行為」と民法第七一五条の「事業ノ執行ニ付キ」なされた行為との異同 三 所有権侵害の故意と特定人に対する所有権侵害の認識の要否。
商法42条,商法38条,民法715条,民法709条
判旨
商法上の「営業ニ関スル行為」に該当しない行為であっても、直ちに民法715条1項の「事業の執行につき」なされたものに当たらないと即断することはできず、両者はその趣旨・目的に応じて個別に判断されるべきである。
問題の所在(論点)
1. 銀行支店長による大量の靴下売買が、商法上の「営業に関する行為」に該当するか。 2. 商法上の「営業に関する行為」に当たらない行為について、民法715条1項の「事業の執行につき」なされたものと認められる余地があるか。
規範
1. 商法42条(現24条)の「営業ニ関スル行為」とは、営業の目的たる行為のほか、営業のため必要な行為を含むが、その該否は行為の性質や取引数量等を勘案し客観的に観察して決すべきである。 2. 民法715条1項の「事業の執行につき」とは、使用者が被用者を使用して広く事業活動を行うことを根拠とし、事業の執行に関連して第三者に損害を加えた場合に責任を負わせる趣旨である。 3. 取引の安全を図る商法42条と、被害者救済を図る民法715条は規定の趣旨を異にするため、前者に当たらないことを理由に直ちに後者の該当性を否定することはできない。
重要事実
銀行のD支店長Eが、F等に対する不良貸付の回収等を目的として、上告人から絹靴下5,000ダースを買い入れ、同行が買主であるかのように誤信させて出荷させた。Eは、同行取締役Gに対し、当該靴下はF等への貸付金の担保であると虚偽の報告をし、Gの命を受けて当該靴下を他所に売却処分した。上告人は、銀行に対し、商法42条による契約責任および民法715条による使用者責任を追及した。
あてはめ
1. 靴下5,000ダースの売買契約は、銀行の営業目的やそのために必要な範囲を客観的に逸脱しており、商法上の「営業に関する行為」には当たらない。 2. もっとも、民法715条の判断においては、Eが同行の支店長として靴下を受領し、さらに取締役Gの指示を受けて「貸付金の回収」という外形的な業務の一環として靴下を売却処分した事実を重視すべきである。 3. 原審が、商法上の権限外であることを理由に直ちに事業執行性を否定し、また過失の有無を検討せずに故意がないことのみをもって不法行為の成立を否定した点は、法の解釈適用を誤ったものといえる。
結論
商法上の代理権の範囲外であっても、民法715条の「事業の執行につき」に該当し得る。また、不法行為の成立には特定人の権利侵害の認識は不要であり、過失の有無も判断すべきであるとして、原判決を破棄し差し戻した。
実務上の射程
商法上の表見代理規定(外観法理)と民法上の使用者責任(報償責任)の要件を峻別する重要判例である。答案上では、契約責任が否定される場面でも、外形標準説に基づき「事業の執行につき」を広く認定し、使用者責任を肯定する論理構成として活用する。
事件番号: 昭和28(オ)1129 / 裁判年月日: 昭和30年9月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法人の目的の範囲外の行為であるからといって、直ちに取引相手方の過失を推定すべきではなく、法人の役員による背任行為について相手方が悪意又は重過失でない限り、当該相手方に法人の目的等に照らした過失があるとはいえない。 第1 事案の概要:上告会社(法人)の訴外役員Dが、被上告人との間でダイヤ等の売買契約…