甲会社営業部責任者が松本市内において店舗を賃借し、乙をこれに常駐させ、長野県下の工事注文の獲得に尽力させており、乙は、右店舗の入口に「甲会社Dセンター」と表示し、右名称を刻したゴム印を同所に備えつけ、自己の氏名に右センター所長の肩書を付し、かつ甲会社の本店等の所在電話番号を付した名刺を作成使用していたものであり、右店舗の表示については甲会社もこれを許容し、甲会社営業部第二課長も乙が甲会社のための木材購入にあたり、右名刺を使用することを認容していた等、判示の事情があるときは、甲会社は乙に対し資材受注の代理権を付与したものと解するのが相当である。
民法第一〇九条の表見代理の成立が認められた事例
民法109条
判旨
本人が、特定の事務所を設置し、他者にその名称を冠した表示や肩書の使用を許容・認容していた場合、当該他者が本人の代理人として行動しているという外観を作出したものとして、民法109条1項の「代理権を与えた旨を表示した」ものと解される。
問題の所在(論点)
本人が特定の名称や肩書の使用を許容・認容していたことが、民法109条1項(授与表示による表見代理)にいう「代理権を与えた旨を表示した」ものといえるか。
規範
民法109条1項の「代理権を与えた旨を表示した」とは、本人が他者に対して代理権を授与したと信じさせるに足りる表示行為を行うことを指す。本人が他者に特定の名称や肩書(「センター」や「所長」等)の使用を許容し、本人の業務を遂行しているかのような外観を放置・認容していた場合には、代理権授与の表示に該当する。
重要事実
上告会社は、業務拡張のため連絡事務所を設置し、訴外Eを常駐させて受注活動に従事させた。Eは、事務所入口に「A株式会社Dセンター」と表示し、同センター所長の肩書を付した名刺を使用。取引書類には同名称のゴム印を押捺し、事務所で代金授受等を行っていた。上告会社はこの名称表示を許容し、営業部課長もEが所長肩書の名刺を使用して業務に従事していることを知りながら認容していた。その後、Eが被上告会社らから工事資材を現地調達したため、被上告会社らは上告会社に対し代金の支払いを求めた。
あてはめ
上告会社は、自社の社名を冠した「Dセンター」という表示を事務所に掲げることを許容していた。また、代理権を有する営業部課長は、Eが「所長」という肩書の名刺を使用して業務に従事していることを知りながら放置していた。このような事実は、上告会社がEに対して資材の現地調達等の代理権を付与したという外観を積極的に作り出し、または認容したものと評価できる。したがって、上告会社は第三者に対し、Eに代理権を与えた旨を表示したものといえる。
結論
上告会社は民法109条1項に基づく表見代理の責任を負い、被上告会社らに対する資材購入代金の支払義務を免れない。
実務上の射程
事務所の看板や肩書使用の許容が授与表示にあたると判示した典型例である。答案上では、商法24条の類推適用と並んで、白紙委任状の交付がないケースでの民法109条の適用場面(名義貸しに近い構成)として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)27 / 裁判年月日: 昭和36年10月19日 / 結論: 棄却
「ローヤル」という商号を用い毛布、洋服生地販売商を営む甲が、乙に右営業店舗内の一部を貸し与え、「ローヤル商会」或いは「ローヤル商会卸部」という類似商号を使用して洋服生地の卸売をすることを終始許諾してきた等原審認定の事実関係のもとでは、乙と取引した丙が乙の営業を甲の営業の一部であると誤認したことは、已むを得ないところであ…