表見代理の成立が認められた事例。
判旨
営業所長として製品販売の代理権を有する者が、権限外の購買契約を締結した場合であっても、営業所の名称や代表者の言動等から相手方が権限があると信ずべき正当な理由があるときは、表見代理が成立する。
問題の所在(論点)
営業所長として「販売」の代理権のみを有する者が行った「購買」契約について、民法110条の表見代理における「正当な理由」が認められるか。
規範
代理人がその権限外の行為をした場合において、相手方がその権限があると信ずべき正当な理由があるときは、表見代理(民法110条)が成立する。正当な理由の有無は、本人の示唆した権限の外観、営業所の名称から推測される業務範囲、代表者の過去の言動、および当該取引の業界慣行等を総合して判断される。
重要事実
上告会社(被告)の営業所長Fは、製品販売の代理権を有していたが、権限外である紅茶の買い入れ契約を被上告会社(原告)と締結した。上告会社の代表者Hは、営業所開設時にFらを伴って被上告会社を訪れた際、Fの代理権に制限があることを告げていなかった。また、当該営業所の名称からは購買が除外されている趣旨は窺えず、営業所名義の当座勘定も存在していた。さらに、紅茶業界では相場変動により一時的な仲間取引(買い入れ)が行われる慣行があった。
あてはめ
まず、代表者Hが自らFを営業所長として紹介し、権限制限を明示しなかったことは、Fに包括的な権限があるとの外観を付与するものである。次に、営業所の名称や当座勘定の存在は、当該拠点が独立して取引を行う組織であると信頼させるに足りる。さらに、紅茶の仲間取引という業界特有の事情に照らせば、販売権限を持つ者が例外的に購買を行うことには合理性がある。これらの事情を総合すれば、被上告会社がFに購買権限があると信じたことには過失がなく、正当な理由があるといえる。
結論
本件売買契約について民法110条の表見代理が成立し、上告会社は代金支払義務を免れない。
実務上の射程
権限外の行為における「正当な理由」の認定において、役職名といった形式的外観だけでなく、代表者による紹介(本人の関与)や業界特有の商慣習が重要な考慮要素となることを示している。答案上は、110条の要件検討において、本人の帰責性と相手方の信頼の合理性を結びつける事実認定の素材として活用すべきである。
事件番号: 昭和30(オ)214 / 裁判年月日: 昭和32年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理の成否に関し、相手方が代理権があると信ずべき正当な理由の有無を判断するにあたっては、取引数量の多寡や本人の業態等の具体的事情を必ずしも個別に詳細判示せずとも、諸般の事情に基づき過失がないと判断することは相当である。 第1 事案の概要:上告人(組合)の組合員であるDが、上告人を…