保安大学の職員が、判示のとおり、職務分掌規程上または事実上の職務の範囲外において、共謀して自動車を騙取した行為は、同大学の「事業ノ執行ニ付キ」なした行為に該当しない。
民法第七一五条の「事業ノ執行ニ付キ」にあたらないとされた事例。
民法715条
判旨
被用者の行為が、職制上の権限のみならず業務の実際においてもその職務の範囲に属しない場合、当該行為は「事業の執行に付き」なされたものとは認められない。
問題の所在(論点)
被用者がその職制上の権限を逸脱して行った不法行為について、民法715条1項の「事業の執行に付き」なされたものと認められるか。特に、事務分掌規程上のみならず事実上の職務実態としても権限がない場合の判断が問題となる。
規範
民法715条1項の「事業の執行に付き」とは、被用者の職務権限そのものに属する行為のみならず、その職務権限の外形を捉えて客観的に職務の範囲に属すると認められる行為をも含む。もっとも、当該行為が職制上の職務権限に属さず、かつ、業務の実際(実態)においても被用者の職務の範囲に属すると認められる事情がない場合には、外形標準説によっても「事業の執行に付き」なされたものとはいえない。
重要事実
D大学の会計課予算係長Fおよび管理課武器係員Gは、共謀してD大学名義で自動車を騙取しようと考え、業者と折衝して契約書を交付し、自動車の引渡しを受けた。しかし、D大学において物品購入権限を持つのは支出負担行為担当官(総務部長)のみであり、業者との折衝や契約書作成は調達係の職務であった。Fは予算編成や官印保管等を担当し、命令がある場合に限り事実上の押捺事務を行うに過ぎず、物品購入権限はなかった。また、Gは車両維持等を担当し検査時に意見を述べる立場に過ぎず、自動車を受領する権限はなかった。
あてはめ
FおよびGによる自動車の買入れおよび受領行為は、D大学の事務分掌規程上の正規の職務範囲に含まれないことは明らかである。また、D大学の業務の実際においても、Fは予算管理や事実上の押捺補助に限定されており、Gも車両管理や検査の補助に留まっていた。したがって、両名の行為が、客観的にD大学の職務の範囲に属すると認めるべき事情は存在しない。本件は、FおよびGがD大学の事業とは無関係に、共謀して自動車を騙取した個人的な犯罪行為に過ぎないというべきである。
結論
FおよびGの行為は「事業の執行に付き」行われたものとはいえず、D大学は使用者責任を負わない。
実務上の射程
外形標準説を前提としつつ、被用者の職務範囲を「職制上」および「業務の実際上」の二段構えで否定することで、結論として使用者責任の成立範囲を限定した事例である。答案上は、外形標準説を維持しつつも、当該行為が客観的に見て事業の範囲内といえるかどうかの事実認定(職務実態の有無)において参照すべき判例である。
事件番号: 昭和39(オ)1025 / 裁判年月日: 昭和42年4月20日 / 結論: 棄却
代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知りまたは知りうべきであつた場合にかぎり、民法第九三条但書の規定を類推適用して、本人はその行為についての責に任じないと解するのが相当である。