航空自衛隊補給統制処第三整備課計画班所属の防衛事務官が、所管事務を装つて売買名下に第三者から魚卵を騙取した場合において、同処、同課、同班の業務内容、物品購入状況等が判示のとおりであり、同事務官の職務権限が同部所管の文書に関する事務など判示のような事務の処理にとどまり、売買その他の契約締結の権限は与えられていないときには、同事務官が、右第三者を航空自衛隊市ケ谷基地内の「補給統制処」の看板が掲げられている建物内会議室に招き入れ、同人に「防衛事務官」の肩書を付した名刺を手交して、魚卵の買受の折衝をしたなど判示の事情があつても、他に同事務官の本来の職務内容と関連性をもち同事務官の職務行為の範囲に属すると認めるに足りる特段の事情がない限り、同事務官の魚卵騙取行為をもつて民法七一五条一項にいう「事業ノ執行ニ付キ」したものということはできない。
防衛事務官が所管事務を装い売買名下に魚卵を騙取した行為が民法七一五条一項にいう「事業ノ執行ニ付キ」したものといえないとされた事例
民法715条
判旨
民法715条の「事業の執行につき」は、行為の外形から職務の範囲に属すると認められる場合を含むが、本件のように担当職務とかけ離れた大規模な物品購入を口頭で行う行為は、特段の事情がない限り職務の外形性を有しない。
問題の所在(論点)
職務権限を全く有しない被用者が、所属官署の看板や執務室等の設備を利用して行った詐欺的取引行為が、民法715条1項の「事業の執行につき」なされたものといえるか。
規範
民法715条1項にいう「事業ノ執行ニ付キ」とは、被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲に属するものと認められる場合を包含する(外形標準説)。
重要事実
航空自衛隊補給統制処の事務官Qは、契約締結権限がないにもかかわらず、自らの利益のために防衛庁が魚卵を買い受ける旨を装い、被上告会社から約4,100万円相当の数の子等を騙取した。Qは、基地内の執務室向かいの会議室で、事務官の肩書を付した名刺を手交し、基地内の電話機を使用したが、発注書や契約書の作成・交付、具体的予算の提示等は行っていなかった。
あてはめ
まず、補給統制処の名称のみから物資購入が所掌事務であるとの外形は生じない。また、基地内での面会や名刺の手交、電話の使用は単なる外部入門者の通常手続や便宜上の事実にすぎない。さらに、4,000万円を超える多額の取引において、本来の職務内容(整備計画の分析等)と無関係な魚卵の購入を、契約書も作成せず口頭のみで行うことは、取引の態様として著しく不自然である。したがって、他に特段の事情がない限り、客観的に職務の範囲に属すると認められる外形を有するとはいえない。
結論
本件行為は「事業の執行につき」なされたものとは認められず、使用者責任は成立しない。
実務上の射程
外形標準説を維持しつつ、外形の有無を「当該被用者の本来の職務内容」との関連性や「取引の態様(契約書の有無・金額)」から厳格に判断する枠組み。答案では、単なる肩書や場所の利用だけでなく、取引内容がその職務として通常想定される範囲内かという実質面を考慮する際に引用する。
事件番号: 昭和44(オ)260 / 裁判年月日: 昭和45年5月22日 / 結論: 棄却
対価を支払つて偽造手形を取得した手形所持人は、その出捐と手形偽造行為との間に相当因果関係が認められるかぎり、その出捐額につき、ただちに損害賠償請求権を行使することができ、手形の所持人としてその前者に対し手形法上の遡求権を有することによつては、損害賠償の請求を妨げられることはない。