一、民法一〇九条、商法二六二条は、会社を訴訟上代表する権限を有する者を定めるにあたつては、適用されない。 二、控訴裁判所が被告会社代表者の代表権限の欠缺を看過してなされた第一審判決を取り消す場合には、原告に対し訴状の補正を命じさせるため、事件を第一審裁判所に差し戻すべきであり、ただちに訴を不適法として却下すべきではない。
一、会社の訴訟上の代表者の確定と民法一〇九条、商法二六二条の適用の有無 二、控訴裁判所が被告会社代表者の代表権限の欠缺を看過してなされた第一審判決を取り消す場合の措置
民訴法58条,民訴法45条,民訴法388条,民訴法389条,民法109条,商法262条
判旨
表見代表取締役の規定(商法262条等)は、取引の安全を図るための規定であり、訴訟行為には適用されない。代表権のない者に対する訴状送達は無効であるが、直ちに訴えを却下せず、補正命令等の手続を経るべきである。
問題の所在(論点)
1. 表見代表取締役(商法262条等)の規定を、訴訟手続における代表権の有無の判断に適用できるか。 2. 訴状に表示された代表者に代表権がない場合、裁判所は直ちに訴えを却下できるか。
規範
民法109条や商法262条(現行会社法354条等)の表見法理は、取引の相手方を保護し取引の安全を図るための規定であり、取引行為とは性質を異にする訴訟手続において会社を代表する権限を定めるにあたっては適用されない。また、代表権のない者に対する訴状の送達は効力を生じないが、この場合、裁判所は直ちに訴えを却下するのではなく、相当の期間を定めて代表者の補正を命じなければならない。
重要事実
上告人は、被上告会社に対して売買代金の支払を求めて提訴した。被上告会社の登記簿上はDが代表取締役とされていたが、事実はDは就任を承諾しておらず、代表権を有していなかった。第一審は請求を認容したが、原審はDに代表権がないことを理由に、本件訴えを不適法として却下したため、上告人が表見法理の適用等を主張して上告した。
あてはめ
1. 商法262条等は取引の相手方保護のための規定であり、表見支配人の訴訟行為を適用除外とする商法42条1項但書の趣旨から見ても、訴訟上の代表権には適用されない。よってDは適法な代表者ではない。 2. 代表権のないDに対する訴状送達は無効である。しかし、裁判所は民訴法(当時)の規定に基づき、真正な代表者への補正を命じ、または特別代理人を選任する等の措置を講じるべきである。これらの補正手続を経ずに直ちに訴えを却下した原審の判断は、民訴法の解釈を誤ったものである。
結論
表見代表取締役の規定は訴訟上の代表権には適用されないが、代表権欠缺の場合には裁判所は補正命令を出すべきであり、直ちに訴えを却下することはできない。原判決を破棄し、第一審に差し戻す。
実務上の射程
会社を被告とする訴訟において、登記簿上の代表者に代表権がない場合、会社法354条類推適用による訴訟追行の有効性を主張することはできない。答案上は、訴訟要件としての代表権の有無を厳格に解した上で、訴訟不経済を避けるための補正命令(民訴法37条・31条)の要否に論点をつなげる際に活用する。
事件番号: 昭和32(オ)618 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】商行為の代理人が本人(会社)のためにすることを表示しなかった場合でも、相手方がそれを知らなかったときは、商法504条但書により本人に対して効果が帰属するだけでなく、相手方は代理人個人に対しても履行を請求できる。 第1 事案の概要:被告(上告人)は、株式会社Dの代表取締役として売買契約を締結したが、…