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書証を排斥するにつき審理不尽理由不備の違法があるとされた事例
民訴法185条,民訴法191条,民訴法395条1項6号
判旨
処分証書ではない報告証書であっても、その記載内容が経験則上、主要事実の存在を強く推認させる場合には、特段の事由がない限り、その証明力を否定することは許されない。また、主要事実と相反する事実関係を示す書証が提出された場合、合理的な理由を示さずにこれを排斥することは、理由不備の違法を構成する。
問題の所在(論点)
報告証書(受領証)や間接事実を証明する書証が、主要事実(代金減額合意の存否)の認定において「有力な根拠」となる場合、裁判所がこれを排斥するために必要な判断の程度。
規範
書証の証明力判断においては、経験則に照らして主要事実の存在を高度に蓋然づける証拠について、合理的な理由(特段の事由)を示すことなくその実質的証明力を否定することは許されない。特に、債務の完済をうかがわせる記載のある受領証(報告証書)や、債権債務関係の存否と矛盾する事後的な金銭消費貸借の事実は、主要事実を認定する上での有力な根拠となるため、これを排斥するには、証拠の解釈や審理において合理的な説明を要する。
重要事実
上告人と被上告人の間の土地売買につき、上告人は代金が400万円から300万円に減額され、完済したと主張した。その根拠として、被上告人発行の受領証に「売買完了」との記載があること(乙1号証の10)、および、代金未払があるとされる時期に逆に被上告人が上告人から金員を借り入れた証書(乙2号証)を提出した。原審は、証人尋問の結果等を理由に、これら書証の重要性について十分な検討や特段の事由の摘示をせず、減額合意の事実を否定した。
あてはめ
まず、乙1号証の10には「売買完了」との記載があり、これは支払済みの合計額をもって全額の支払が完了したことを示すもので、代金減額合意を推認させる有力な根拠となる。次に、乙2号証によれば、代金未払があるはずの時期に売主が買主から借金をしており、これは未払代金債権がある状態では通常生じがたい事態である。原審は、これらの書証が持つ推認力を否定するに足りる「特段の事由」を具体的に示しておらず、重要な証拠の判断を遺脱しているといえる。
結論
原審の事実認定には、証拠の解釈を誤り、あるいは審理を尽くさず、理由不備の違法がある。したがって、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
司法試験においては、民事訴訟法上の「自由心証主義の限界」や「判決の理由不備(民訴法312条2項6号)」が問われる場面で活用する。特に、報告証書の証明力を排斥する際に『特段の事由』の論法を用いることで、事実認定の合理性を論述する際の指針となる。また、書証から導かれる経験則上の推認が事実上の拘束力を持つ場面を特定する際にも有用である。
事件番号: 昭和34(オ)197 / 裁判年月日: 昭和36年9月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】裁判所が売買契約の成立を認定する場合であっても、当事者が予備的に主張した通謀虚偽表示の抗弁について判断を遺脱し、かつ証拠資料の合理的な解釈を怠ったときは、審理不尽・理由不備として破棄を免れない。 第1 事案の概要:上告人は、売買の成立を否定するとともに、仮に売買があったとしてもそれは通謀虚偽表示で…