判旨
裁判所が特定の証拠の一部を信用できないとして退け、他の証拠によっても事実を認定できないと判断することは、合理的な範囲内であれば採証法則違反や判断遺脱には当たらない。
問題の所在(論点)
事実審裁判所が、主張事実に符合する証言や供述の一部を排斥し、事実を認定しなかったプロセスに、採証法則違反や判断遺脱の違法があるか。
規範
事実認定における証拠の取捨選択および証明力の評価は、専ら事実審裁判所の自由な心証に委ねられる。証拠の一部を排斥し、残りの証拠では事実を認めるに足りないと判断しても、その論理展開に合理性がある限り、適法な事実認定とされる。
重要事実
機械の売買契約において、当事者間に「3年間無料で修繕する」という特約が存在したか否かが争点となった。上告人は、証人らの証言や上告人本人の供述に当該特約を裏付ける内容が含まれていると主張したが、原審はこれらの証拠の一部を「信用し難い」とし、その他の証拠を総合しても特約の事実は認められないと判断した。
あてはめ
原審は、証人E、Fの証言および上告人本人の供述のうち、特約の存在に符合する部分を具体的に検討した上で、これを信用し得ないものとして排斥している。また、それ以外の証拠についても検討を尽くしたが、当該事実を認定するには不十分であると結論づけている。このような証拠の取捨判断および事実認定の過程には不合理な点は認められず、判断を遺脱した形跡もないといえる。
結論
原審の事実認定に違法はなく、特約の存在を否定した判断は適法であるため、本件上告は棄却される。
実務上の射程
自由心証主義に基づく事実認定のプロセスを確認する事案。司法試験においては、民事訴訟法における事実認定の合理性や、上告理由としての採証法則違反(自由心証主義の限界)を論じる際の基礎資料となる。ただし、本判決自体は事実認定の妥当性を肯定する事例判断に留まる。
事件番号: 昭和34(オ)197 / 裁判年月日: 昭和36年9月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】裁判所が売買契約の成立を認定する場合であっても、当事者が予備的に主張した通謀虚偽表示の抗弁について判断を遺脱し、かつ証拠資料の合理的な解釈を怠ったときは、審理不尽・理由不備として破棄を免れない。 第1 事案の概要:上告人は、売買の成立を否定するとともに、仮に売買があったとしてもそれは通謀虚偽表示で…