判旨
裁判所が売買契約の成立を認定する場合であっても、当事者が予備的に主張した通謀虚偽表示の抗弁について判断を遺脱し、かつ証拠資料の合理的な解釈を怠ったときは、審理不尽・理由不備として破棄を免れない。
問題の所在(論点)
当事者が主張した通謀虚偽表示の仮定抗弁に対し、売買の認定のみで判断を示したものといえるか。また、代金受領の記載がある書証を合理的な理由なく排斥し、贈与等の事実を否定した認定は適法か。
規範
裁判所は、当事者が提出した独立の攻撃防御方法(予備的抗弁等)に対し、判断を示す義務を負う。また、書証(領収の記載等)が事実認定に及ぼす合理的な推認力について、特段の事情がない限り、理由を付さずに排斥することは許されない。
重要事実
上告人は、売買の成立を否定するとともに、仮に売買があったとしてもそれは通謀虚偽表示であるとの仮定抗弁を提出していた。また、証拠(甲第4号証)には代金24万円を受領した旨の記載があったが、原審は「形式を整えたに過ぎない」として、贈与や債務免除の可能性を十分に検討せず、売買の成立のみを認定して抗弁を排斥した。
あてはめ
上告人が主張した通謀虚偽表示の仮定抗弁は、売買の成立を前提とした独立の防御方法であり、単に「売買を認定した」ことのみをもって判断を示したものとは解されない。また、書証上の「代金領収」の記載は、客観的に代金債務の不存在や贈与、債務免除を推認させる有力な資料となり得る。原審がこれを特段の理由なく「形式的」と断じ、贈与等の認定を退けたことは、審理不尽および理由不備に該当する。
結論
原判決を破棄し、本件を名古屋高等裁判所金沢支部に差し戻す。
実務上の射程
民事訴訟における「判断遺脱」および「証拠法則(経験則違反)」を論じる際の素材となる。特に、予備的抗弁に対する判断の必要性と、書証(領収書等)から導かれる事実認定の論理性を担保する判例として、実務・答案上重要である。
事件番号: 昭和30(オ)496 / 裁判年月日: 昭和31年6月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告審において、原審で主張していなかった新たな抗弁を主張することは許されない。また、原審の証拠取捨や事実認定の適否は、適法な上告理由とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、原審において民法513条2項(現行法513条1項)に基づく更改の主張を行っていなかったが、上告審に至って新たにこの更改の成…