判旨
裁判所が挙示の証拠により事実認定を行う際、特定の証拠の記載内容のみを理由に認定が動揺しないのであれば、その証拠の作成経過の立証を促す釈明義務はない。
問題の所在(論点)
事実認定の基礎となる証拠について、その作成経過が不明な場合に、裁判所は当事者に対して当該経過の立証を促すべき釈明義務を負うか。
規範
自由心証主義(民事訴訟法247条)に基づき、裁判所が証拠の総合評価によって事実を認定した場合、特定の証拠が認定を左右しない程度のものであるときは、その証拠の作成経過等について立証を促す釈明権の行使(同法149条)は義務付けられない。
重要事実
上告人は、原判決が引用した第一審判決の事実認定に不服を申し立て、乙第一号証の記載内容が認定を覆すべきものであると主張した。また、原審において当該証拠の作成経過についての立証がなされず、裁判所もその立証を促さなかったことが手続上の違法であると主張して上告した。
あてはめ
原判決が挙げた証拠群に照らせば、提示された認定事実は十分に導き出される。上告人が主張する乙第一号証は、その記載内容を勘案しても、既になされた事実認定を動かすに足りる証拠力を持たない。したがって、認定を左右しない証拠について、その作成経過の立証を求める必要はなく、裁判所が立証を促さなかったことに不備はないと解される。
結論
裁判所が既に十分な証拠に基づき事実を認定している以上、特定の証拠の作成経過について立証を促す必要はなく、釈明義務違反は認められない。
実務上の射程
事実認定の合理性(自由心証の範囲)と釈明義務の関係を示す。裁判所が心証を得ている場合に、認定に影響しない瑣末な証拠の裏付けを求める必要がないことを確認する際に用いる。
事件番号: 昭和33(オ)1025 / 裁判年月日: 昭和36年5月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が証拠の信憑性を判断することは自由心証主義に基づく裁量権の範囲内であり、当事者が自ら尽くすべき立証を怠った場合に裁判所が釈明権を行使しなかったとしても、直ちに違法とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、原審において提出した証拠(乙第一号証)が採用されず、また裁判所が釈明権を行使して立証の…