売買契約に際し当事者間に作成された不動産売買契約証書の記載と異なつた持分について売買がなされたものと認定された事例。
判旨
処分証書が存在する場合であっても、その作成に至った経緯や他の証拠との整合性を考慮し、必ずしも書面の文言通りの契約内容に拘束されず、実質的な当事者の合意を認定することができる。
問題の所在(論点)
処分証書が存在する場合において、裁判所は当該証書の文言に拘束されることなく、作成の経緯や他の証拠に基づき、実質的な契約内容(本件では持分割合および代金支払の約定)を認定することができるか。
規範
契約の成立および内容の認定においては、契約書(処分証書)の記載内容を重視すべきであるが、それが絶対的なものではない。証拠書面が作成されるに至った具体的な経緯や、他の客観的な証拠、当事者の言動、取引の推移などの諸事情を総合考慮し、真実の合意内容を確定すべきである。
重要事実
被上告人が溜池の3分の2の持分を有しており、これを上告人に売却する契約が成立した。その際、不動産売買契約証書(乙1号証)および不動産売渡証書(乙6号証)が作成された。上告人は、乙1号証こそが当事者間の実質的契約内容を記載したものであると主張し、また、被上告人が第三者に対し自己の持分が2分の1であるとの認識を示したとされる書簡(乙2号証)を根拠に、持分等の契約内容を争った。
あてはめ
本件において、乙1号証(売買契約証書)が作成されるに至った経過を検討したところ、必ずしもその文言のみが実質的契約内容を反映しているとは限らない。また、乙6号証が別に作成されている事実も、乙1号証の記載内容を絶対視する根拠にはならない。乙2号証(書簡)についても、被上告人が自己の持分を2分の1と認めたものではなく、発信の趣旨に照らせば原審の認定は妥当である。したがって、証拠の取捨選択および事実認定において不合理な点はなく、実質的な合意に基づき3分の2の持分売買と残代金支払の約定が認められる。
結論
上告人の主張は独自の証拠評価に基づくものであり、原審の適法な事実認定を左右するものではないため、上告を棄却する。
実務上の射程
処分証書の証明力に関する実務上の指針となる。書面の文言が原則として重視されるものの、作成経緯や前後の状況によってその証明力が減殺される場合があることを示しており、事実認定において書面の背後にある事情を主張・立証する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)197 / 裁判年月日: 昭和36年9月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】裁判所が売買契約の成立を認定する場合であっても、当事者が予備的に主張した通謀虚偽表示の抗弁について判断を遺脱し、かつ証拠資料の合理的な解釈を怠ったときは、審理不尽・理由不備として破棄を免れない。 第1 事案の概要:上告人は、売買の成立を否定するとともに、仮に売買があったとしてもそれは通謀虚偽表示で…