株式会社が代表取締役の退任及び代表権の喪失につき登記したときは、その後その者が会社の代表者として第三者とした取引については、民法一一二条の適用はない。
株式会社が代表取締役の退任及び代表権の喪失を登記したときと民法一一二条
民法112条,商法12条
判旨
株式会社の代表取締役の退任および代表権喪失は、商法上の登記事項であるため、登記後は商法12条(現行商法9条1項・会社法908条1項)のみが適用される。したがって、登記後に善意の第三者が対抗するには同条の「正当な事由」を要し、民法112条(代理権消滅後の表見代理)を重ねて適用ないし類推適用することはできない。
問題の所在(論点)
代表取締役の代表権消滅という登記事項が登記された後、なお民法112条(代理権消滅後の表見代理)を適用し、登記を信頼した第三者を保護して会社の責任を認めることができるか。
規範
商法が登記事項の登記後に第三者への対抗を認めるのは、大量・反復的かつ不特定多数に及ぶ商取引の安全と利害調整を図る趣旨である。代表取締役の退任および代表権喪失は登記事項であるから、登記後は同条が排他的に適用され、「正当な事由」がない限り善意の第三者にも対抗できる。これに対し、民法112条(現行112条1項)を適用または類推適用して会社の責任を問うことは許されない。
重要事実
上告人会社の代表取締役Dは、取締役を退任し代表権を喪失したが、その旨の登記がなされた。しかしDは、登記後も会社代表者名義を用いて本件約束手形をFに振り出した。手形はG商店を経て被上告人に裏書譲渡された。被上告人は、FにおいてDの代表権喪失につき善意無過失であったとして、民法112条に基づき上告人会社へ手形金の支払いを求めた。
あてはめ
本件では、Dの代表権喪失という登記事項が既に登記されていた。この場合、商法12条(現行会社法908条1項)が規定する「正当な事由」の有無こそが審理されるべきである。原審は、Fが代表権喪失につき「善意無過失」であることを理由に民法112条を適用したが、これは登記事項の公示力を重視し取引の安全を図る商法の適用法理に反する。Fにおいて「正当な事由」があったことの立証がない限り、会社に責任を負わせることはできない。
結論
代表権消滅の登記後は、民法112条の適用・類推適用の余地はなく、商法12条(会社法908条1項)の「正当な事由」の有無のみによって決すべきである。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
消極的公示力(登記前)における民法110条等の重畳適用の可否(908条1項と表見代理)とは異なり、積極的公示力(登記後)の場面では、公示の強さを優先し民法112条の適用を否定する。答案上は、登記の有無を確認し、登記後であれば本判例を引用して会社法908条1項のみを検討する。
事件番号: 平成3(オ)1233 / 裁判年月日: 平成6年4月19日 / 結論: 棄却
社会福祉法人の理事の退任につき登記がされた場合には、その後その者が右法人の代表者として第三者とした取引については、客観的な障害のため第三者が登記簿を閲覧することが不可能ないし著しく困難であるような特段の事情がない限り、民法一一二条の規定は適用されない。
事件番号: 昭和52(オ)893 / 裁判年月日: 昭和52年12月23日 / 結論: 棄却
株式会社が代表取締役の代表資格喪失及び取締役退任の登記をして約一月を経たのち、同人が会社に無断で振出した手形の受取人には、右代表資格喪失の事実を知らなかつたことにつき商法一二条の正当事由があるとはいえない。