株式会社が代表取締役の代表資格喪失及び取締役退任の登記をして約一月を経たのち、同人が会社に無断で振出した手形の受取人には、右代表資格喪失の事実を知らなかつたことにつき商法一二条の正当事由があるとはいえない。
商法一二条にいう正当事由があるとはいえないとされた事例
商法12条
判旨
不実の登記がなされている場合であっても、登記簿を閲覧することが可能となった後、特段の事情がない限り、登記された事項を知らないことにつき「正当な事由」があるとは認められない。
問題の所在(論点)
商法9条(旧12条)後段の「正当な事由」の存否。登記がなされた後、登記簿の閲覧が客観的に可能な状態にある場合において、第三者が当該事項を知らなかったことに過失がないといえるか。
規範
商法9条(旧商法12条)にいう「正当な事由」とは、登記すべき事項(退任等)につき登記がなされた後であっても、第三者がその事実を知らなかったことについて、過失がないと認められる客観的かつ合理的な事情を指す。原則として、登記事項を閲覧可能な状態にあれば、それだけで善意であっても過失がないとはいえず、閲覧を妨げるような具体的・客観的障害が存在しない限り「正当な事由」は認められない。
重要事実
株式会社Fの代表取締役であった人物が、昭和43年12月28日に代表資格を喪失し、取締役を退任した。その旨の登記は同日になされ、昭和44年1月7日または8日には登記簿を閲覧可能な状態となっていた。しかし、訴外Eは昭和44年2月上旬、資格を喪失したはずの旧代表者が振り出した本件約束手形の交付を受け、その後、上告人へと裏書譲渡がなされた。
あてはめ
本件において、Fの代表取締役の退任および資格喪失の登記は、昭和43年12月末になされている。そして、手形が振り出された昭和44年2月上旬の約1ヶ月前である同年1月7日頃には、すでに登記簿を閲覧することが可能な状態であった。Eがこの登記内容を確認せずに取引を行ったことは、特段の事情がない限り、登記事項を知らなかったことについて過失があるといえる。したがって、Eには登記を知らなかったことにつき客観的合理的な理由は存在しない。
結論
EがFの代表資格喪失を知らなかったことについて、商法9条(旧12条)の「正当な事由」があるとはいえない。
実務上の射程
消極的公示力(登記前)の事案ではなく、積極的公示力(登記後)の事案における「正当な事由」の意義を明確にしている。答案上は、登記後であれば原則として第三者は保護されない(正当な事由のハードルは極めて高い)ことを示す根拠として活用する。
事件番号: 昭和42(オ)848 / 裁判年月日: 昭和45年3月27日 / 結論: 棄却
手形振出の代理権を有しない信用組合の表見参事が代理資格を冒用して約束手形を振り出した場合において、手形受取人および同人の被裏書人がいずれも右代理権のないことを知つて手形を取得したときには、信用組合は被裏書人である手形所持人に対し、右表見参事が右代理権を有しなかつたことをもつて対抗することができる。