営業を廃止した者の営業当時の名称を用いて他人が手形振出をした案件において右名称使用について黙示の許諾があつたかどうかの点の審理不尽、理由不備があるとされた事例。
判旨
自己の商号を使用して営業をなすことを他人に許諾したと言えるためには、明示の許諾のみならず、第三者が誤認するのを防止する措置を講じない等の事情から推認される黙示の許諾でも足りる。
問題の所在(論点)
商法9条(名義貸与人の責任)における「許諾」に、明示の許諾がない場合であっても、放置等の事情により黙示の許諾があったと認められる余地があるか。
規範
商法9条(旧23条)の責任を負う「自己の氏名又は商号を使用して営業又は事業をすることを許諾した」者には、明示的に許諾を与えた者だけでなく、他人が自己の商号等を使用して営業していることを知りながら、これに対し異議を述べたり、自己の営業とは別個であることを表明したり、あるいは第三者の誤認を防止するために必要な措置を講じない等、黙示的に許諾したと解される者も含まれる。
重要事実
被告(被上告人)は自動車修理工場を営んでいたが廃業し、元従業員Eがその場所・建物・工具・看板(商号)をそのまま使用して独立した営業を開始した。被告の住所と当該営業所は近接しており、Eが被告の商号等を用いた営業を継続していたところ、Eは当該商号名義で約束手形を振り出した。第一審・原審は、被告が明示の許諾を与えた証拠がないとして責任を否定したが、被告が誤認防止措置を講じた事実は現れていなかった。
あてはめ
本件では、被告が営業廃止後も、至近距離で元従業員Eが同一の商号・看板・設備を用いて同種営業を継続していることを知り得る状況にありながら、これに異議を述べたり、別個の営業であることを公表したり、誤認防止措置を講じたりした形跡がない。このような事実関係の下では、被告においてEが当該商号を用いて営業を行うことを黙示的に許諾した可能性が否定できない。単に明示の許諾がないことのみをもって名義貸与の成立を否定した原審の判断は、理由不備の違法がある。
結論
被告が黙示の許諾を与えたと認められる余地があるため、商法9条の責任の成否を再審理させるべく、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
本判決は、名義貸与の要件である「許諾」を緩やかに解し、不作為による黙示の許諾を認める道を拓いた。司法試験等の答案上は、本人の帰責性を論じる際、単なる放置ではなく「外観を知りながら放置した」という主観的態様と客観的な放置状況をセットで指摘し、黙示の許諾を認定する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)433 / 裁判年月日: 昭和40年4月9日 / 結論: 破棄差戻
会社名義で振り出された約束手形につき、手形面上に会社代表者として表示されている者に代表権はあるが、右代表者の記名押印をした者に代表権がない場合であつても、会社が後者に対して常務取締役等会社を代表する権限を有するものと認められる名称を与えており、かつ、手形受取人が右後者の代表権の欠缺につき善意であるときは、右後者が自己の…