名板借人が名板貸人の意思にもとづかないで同人名義をもつて手形を振り出した場合でも、名板貸人は、商法第二三条の規定により、その手形金支払の責任を負う。
名板貸人名義の偽造手形と商法第二三条の適用
商法23条
判旨
自己の氏名・商号の使用を許諾した名板貸人は、名板借人がその許諾の範囲外で勝手に作成・振出した手形についても、これを営業主と誤認して取得した善意無過失の第三者に対し、商法9条(旧23条)に基づき責任を負う。
問題の所在(論点)
1. 営業を廃止した後に名板借人が行った取引について、名板貸人は商法9条(旧23条)の責任を負うか。2. 名板借人が名板貸人の意思に基づかず、無断で名板貸人名義の手形を振り出した場合にも、同条の責任が及ぶか。
規範
商法9条(名板貸人の責任)は、名板借人と取引をした第三者の誤認を保護する趣旨の規定である。したがって、名板貸人が名板借人に対し自己の氏名・商号の使用を許諾(黙示を含む)していた以上、名板借人が名板貸人の意思に基づかずにその名義で手形を振り出した場合であっても、当該第三者が名板貸人を営業主であると誤認し、かつその誤認に重大な過失がないときは、名板貸人は当該手形につき支払責任を負う。
重要事実
上告人は、訴外Dに対し、自己の氏名および商号である「E自動車修理工場ことF」名義の使用を黙示的に承認していた。その後、上告人は営業を廃止したが、その旨を一般に公示したり、既知の取引先等に周知徹底させたりする措置を講じていなかった。Dは、上告人の意思に基づかず、上告人名義を用いて本件手形を振り出した。被上告人は、上告人を営業主であると誤認して本件手形を取得した。
あてはめ
まず、上告人はDに名義使用を許諾しており、営業廃止後も周知徹底を怠ったため、外観作出の帰責性が認められる。次に、商法9条は第三者の信頼保護を目的とする規定である。Dが上告人の承諾なく手形を振り出したとしても、上告人が名義使用を許諾して営業主であるかのような外観を維持していた以上、当該外観を信じて手形を取得した被上告人の利益は同条により保護されるべきである。被上告人が上告人を営業主と信じたことについて重大な過失があるとは認められない。
結論
上告人は、商法9条(旧23条)の類推適用等に基づき、善意の第三者である被上告人に対し、本件手形の支払責任を負う。
実務上の射程
本判決は、名板貸人の責任が手形行為にも及ぶことを明示した重要判例である。答案上は、①名義使用の許諾、②外観の存在、③第三者の信頼(善意・無重過失)を要件として論じる際、手形という「許諾範囲外」の行為であっても、営業の範囲内とみえる取引であれば外観信頼を優先させる根拠として引用する。
事件番号: 昭和35(オ)863 / 裁判年月日: 昭和38年10月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】自己の商号を使用して営業をなすことを他人に許諾したと言えるためには、明示の許諾のみならず、第三者が誤認するのを防止する措置を講じない等の事情から推認される黙示の許諾でも足りる。 第1 事案の概要:被告(被上告人)は自動車修理工場を営んでいたが廃業し、元従業員Eがその場所・建物・工具・看板(商号)を…