登記簿上A商号B目的代表取締役甲名義の株式会社が株主総会の決議なしに実際上C商号D目的代表取締役乙名義のもとに三ケ月余にわたつて取引活動をして来た場合、乙がC商号を使用し、その代表者として振り出した約束手形については、その後商号および目的の変更、乙の取締役選任の各決議がなされ、かつ乙が代表取締役に選任され、右につき各登記を経た上、乙の振出を会社が追認したときは、会社が振出人としての責を負うものと解すべきである。
商号変更に関する株主総会の決議前に、新商号のもとに振り出された約束手形につき会社が振出人としての責を負うとされた事例。
手形法8条,手形法78条,商法12条,民法113条
判旨
法人の商号変更登記前であっても、旧商号の法人が新商号を用いて社会的に取引活動を行う一企業体として実在する場合、その商号による手形行為は虚無人名義とはならず、後に法人が追認すれば無権代理人としての責任(手形法8条)は免れる。
問題の所在(論点)
商号変更の決議および登記前になされた新商号による手形振出について、当該商号の会社を「虚無人」とみるべきか、また、その後の法人の追認により振出人個人の手形法8条に基づく責任を免れるか。
規範
商号変更の登記前であっても、法人の同一性が認められ、かつ新商号を用いて社会的に取引活動を行う一企業体として実在している場合には、その商号を冠した代表者名義の手形行為は実在する法人を本人とする代理行為と解される。また、振出当時に代表権限を欠いていたとしても、本人たる法人が後に当該手形行為を追認したときは、手形法8条の無権代理人の責任を免れる。
重要事実
D社(旧商号)の監査役であった被告(被上告人)は、商号をF社(新商号)に変更し、自らが代表取締役に就任することを関係者と合意した。被告は変更登記や株主総会決議の前からF社代表取締役を名乗り、約3ヶ月間にわたり取引活動を継続していた。その過程で被告はF社代表取締役名義で本件各手形を振り出したが、振出当時はまだD社からF社への変更決議および登記は未了であった。その後、適法に変更決議および登記がなされ、F社は被告による手形行為を追認した。所持人である原告(上告人)は、振出当時F社は虚無の会社であった等と主張して、被告個人の責任を追及した。
あてはめ
まず、商号変更の前後で法人の人格は同一である。本件では、振出当時、登記上はD社であったが、社会的にはF社名義で3ヶ月余りにわたり取引活動を継続しており、一企業体として実在していたといえる。したがって、F社は虚無の会社ではなく、本件行為は実在する法人を本人とする代理行為である。次に、被告は振出当時において適法な代表権限を欠いていたが、本人たるF社が後にこの手形行為を追認している。無権代理行為について本人の追認があった以上、被告個人に手形法8条による振出人としての責任を帰することはできない。
結論
被告(被上告人)は手形法8条に基づく責任を負わない。上告棄却。
実務上の射程
商号変更等の登記を怠ったまま新名称で活動していた場合の責任関係を画する。法人の同一性が維持され、実態として企業活動が行われている場合には、形式的な登記の有無にかかわらず無権代理の枠組み(および追認による責任免脱)で処理すべきことを示している。答案上は、手形法8条の要件検討において「本人」の実在性や追認の効果を論じる際に参照すべきである。
事件番号: 昭和37(オ)1003 / 裁判年月日: 昭和38年11月19日 / 結論: 棄却
実在しない法人の代表者名義で約束手形を振り出した者は、手形法第八条の類推適用により、右手形の振出人としての責任を負うべきである。