実在しない法人の代表者名義で約束手形を振り出した者は、手形法第八条の類推適用により、右手形の振出人としての責任を負うべきである。
実在しない法人の代表者名義で約束手形を振り出した者の責任。
手形法8条
判旨
実在しない法人を振出人として手形を振り出した者は、手形法8条を類推適用し、振出人として手形上の責任を負う。
問題の所在(論点)
実在しない法人の名称を用いて手形を振り出した個人が、手形法8条の類推適用により、自ら手形債務を負担するか。
規範
代理権を有しない者が他人の代理人として手形に署名した場合には、その者が手形上の責任を負う(手形法8条)。本条は、存在しない者の代理人として署名した場合についても、手形の流通・支払を確保し、取引の安全を図るという趣旨から、類推適用されるべきである。
重要事実
上告人は、実在しない「有限会社旅館D」という法人を振出人として、本件約束手形を振り出した。当該法人は、単に商号変更登記や代表者選任登記が未了であるといった実態のある法人ではなく、法人自体が全く実在しないものであった。
あてはめ
本件において、上告人は「有限会社旅館D」なる実在しない法人の名称を用いて手形を振り出している。これは、実在しない者の代理人(または代表者)として署名したのと実質的に異ならない。単なる登記未了の事案とは異なり、責任の帰属主体が存在しない以上、手形取引の安全を保護する必要性は極めて高い。したがって、手形法8条を類推適用し、実際に署名行為に関与した上告人個人に手形上の責任を負わせるのが相当である。
結論
上告人は、手形法8条の類推適用により、本件約束手形の振出人としての責任を負う。
実務上の射程
実在しない法人の代表者を自称して手形を振り出した場合に、行為者個人の責任を肯定する根拠として活用する。登記未了等の手続的不備に留まる場合との区別に留意が必要である。
事件番号: 昭和38(オ)581 / 裁判年月日: 昭和39年3月19日 / 結論: 棄却
いわゆる署名代理による手形振出行為は有効であつて、本人が振出人として手形上の責任を負う。