振出当時いまだ法律上存在しない会社の取締役社長何某として振出人欄に署名して振り出された約束手形は、右何某個人によつて振り出されたものと認めるものが相当である。
法律上存在しない会社の取締役社長名義による約束手形の振出の効力
商法57条,手形法8条,手形法75条
判旨
実在しない会社を振出人として記載し、個人がその代表者として署名した手形振出は、代表資格の記載は無意味であり、当該個人が振出人として責任を負う。
問題の所在(論点)
存在しない会社の代表者として手形に署名・捺印した場合、当該署名者は個人として手形上の責任を負うか。手形法上の振出人の確定が問題となる。
規範
手形振出人欄に実在しない会社の名称が記載され、個人がその代表取締役として署名した場合、その代表資格による記載は法的意味をなさず、署名した個人が自己の責任において手形を振り出したものと解するのが相当である。
重要事実
被告Aは、昭和29年11月10日、約束手形の振出人欄に「D株式会社 取締役社長 A」と記載して手形を振り出した。しかし、当時、当該名称の会社は登記簿上に存在せず、類似の名称を持つ別会社(株式会社E)が後に商号変更したものの、振出時点では別所在地にあり、かつAが代表取締役に就任したのは振出後の昭和30年5月であった。つまり、振出時点において「D株式会社」は法律上存在しない会社であった。
あてはめ
本件手形の振出時において、振出人欄に記載された『D株式会社』は法律上存在しない会社であった。したがって、被告Aが同社の代表取締役社長として署名したとしても、存在しない主体の代表という記載は無意味である。手形は外観上有効な手形として流通させるべき性質を有することから、代表資格の表示を排斥し、現実に署名行為を行ったA個人による振出と認めるのが論理的である。被告らが請求原因事実を認めている事情もこれを補強する。
結論
被告Aが個人として本件約束手形を振り出したものと認められ、手形金支払義務を負う。
実務上の射程
実在しない架空の会社や、設立登記前の会社の名義で手形行為が行われた場合に、行為者個人の責任を追及するための根拠となる。署名代理や無権代理の規定を介さずとも、署名者本人の行為として帰属させる枠組みとして有用である。
事件番号: 昭和37(オ)1003 / 裁判年月日: 昭和38年11月19日 / 結論: 棄却
実在しない法人の代表者名義で約束手形を振り出した者は、手形法第八条の類推適用により、右手形の振出人としての責任を負うべきである。