振出人欄に「B」、その肩書部分に「たからや」の記載がなされ、右「B」名下に「有限会社D洋装店代表取締役印」の押印がなされている約束手形の振出人は、有限会社D洋装店と認めるのが相当である。
約束手形の振出人欄の肩書と押印から会社が振出人であるとされた事例。
手形法75条
判旨
手形の振出人は手形面の記載を外観から客観的に判断すべきであり、個人の氏名が記名されていても、職印が捺印されている場合は全体を総合して会社代表者としての行為と解される。
問題の所在(論点)
手形の振出人欄に個人の記名がある一方で、法人の代表取締役印が捺印されている場合、振出人を誰と認定すべきか。また、手形面以外の事情を振出人の認定に考慮できるか。
規範
手形の振出人が誰であるかは、手形行為の性質上、手形面の記載を外観から判断して客観的に決定すべきである。したがって、記名部分と捺印部分を包括して全体を総合的に観察し、その表示が個人を指すのか、あるいは会社を代表する資格によるものかを判断する。この際、手形面以外の外部的事情(ゴム印の過去の使用履歴等)は考慮すべきではない。
重要事実
本件約束手形の振出人欄には、Bという個人の氏名の記名があったが、その名下に押捺された印章は「有限会社D洋装店代表取締役印」という職印であった。一方で、使用されたゴム印は、かつて被上告人が個人営業を行っていた際に使用していたものであった。上告人は、氏名の記載がある以上、B個人が振出人としての責任を負うべきであると主張した。
あてはめ
本件手形の振出人欄の記載を見ると、Bという記名があるものの、その名下の印章は職印であることが明白であり、到底B個人の印章とは認められない。ゴム印が過去の個人営業時のものであったとしても、手形面の客観的記載に基づけば、右記名捺印を包括して見る限り、被上告人個人の記名捺印と認めることはできない。したがって、全体を総合すれば、有限会社D洋装店の代表取締役Bが、同会社の代表者として手形を振り出したものと解するのが相当である。
結論
本件約束手形の振出人は、B個人ではなく有限会社D洋装店である。したがって、B個人に対する手形金請求は認められない。
実務上の射程
手形行為の解釈における客観主義・外観主義を徹底した判例である。答案上は、顕名の有無(商法504条但書の適用可否等)が問題となる場面で、まず「手形面から客観的に誰の行為と見えるか」を確定するための判断枠組みとして活用する。特に記名と捺印が不一致の場合の優先順位や総合考慮の基準として重要である。
事件番号: 昭和29(オ)737 / 裁判年月日: 昭和31年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】肩書付きで署名・捺印された書面が、個人の保証義務を認める趣旨であるか否かは、書面の形式のみならず、その作成に至る経緯等の事実関係を総合して判断されるべきである。 第1 事案の概要:上告人会社と訴外D防水布株式会社との手形取引に際し、D社の専務取締役であった被上告人が「誓約書」に捺印した。この誓約書…