判旨
実在しない会社の代表者名義で約束手形を振り出した者は、代表権限を証明できない以上、振出人として個人で手形上の責任を負う。また、設立中の会社の発起人組合を代表して振り出したと主張する場合であっても、代表権限の証明がなければ無権代理人としての手形上の責任を免れない。
問題の所在(論点)
存在しない会社(または設立中の組合)の代表者として手形を振り出した者が、その代表権限を証明できない場合に、振出人としての手形上の責任を免れることができるか。
規範
存在しない法人を振出人として手形を作成した場合、または実質的に組合のために振り出したと主張する場合であっても、その代表権限を証明することができないときは、署名者は手形法上の無権代理の規定(手形法8条準用)等により、個人として手形上の責任を負う。
重要事実
上告人Aは、約束手形3通の振出人欄に「有限会社D商事社代表社員A」と記載して手形を振り出した。しかし、当該会社は設立準備がなされたのみで実際には成立しておらず、存在しない会社であった。Aは、本件手形は設立中の会社の発起人組合のために代表して振り出したものであるから個人責任は負わないと主張したが、Aが当該組合を代表する権限を有していたことを証明する証拠は存在しなかった。
あてはめ
上告人Aは、手形に「有限会社D商事社代表社員A」と記載したが、自ら同会社が不存在であることを認めている。この場合、Aは有効な代表権限を証明することができない場合に該当する。また、仮に実質的に発起人組合を代表して振り出したとしても、その代表権限の存在を証明するに足りる証拠がない。したがって、Aは無権代理人と同様の立場にあり、手形上の署名者として自ら責任を負うべきである。
結論
上告人は、代表権限の証明ができない以上、振出人としての手形上の責任を免れない。
実務上の射程
法人格のない団体や不存在の会社の名義を用いた署名について、無権代理人(手形法8条)の責任を認める際の基礎となる判例である。答案上は、記名捺印の有効性や無権代理責任を論じる文脈で、代表権限の立証責任が署名者側にあることを示す際に活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)926 / 裁判年月日: 昭和33年3月20日 / 結論: 棄却
手形法第七条による裏書人の手形上の責任は、取得者の悪意により消長を来たさないと解すべきである。