社会福祉法人の理事の退任につき登記がされた場合には、その後その者が右法人の代表者として第三者とした取引については、客観的な障害のため第三者が登記簿を閲覧することが不可能ないし著しく困難であるような特段の事情がない限り、民法一一二条の規定は適用されない。
社会福祉法人の理事の退任についての登記と民法一一二条の適用
民法112条,社会福祉事業法27条
判旨
社会福祉法人の理事の退任が登記された後は、登記簿の閲覧が客観的に不可能または著しく困難であるといった特段の事情がない限り、民法112条の表見代理規定を適用・類推適用することはできない。
問題の所在(論点)
社会福祉法人の理事の退任が登記された後、その理事が代表者として行った行為について、民法112条(代理権消滅後の表見代理)の規定を適用・類推適用して法人の責任を問うことができるか。社会福祉事業法(現・社会福祉法)における登記の対抗力との関係が問題となる。
規範
社会福祉法人が理事の退任(代表権の喪失)につき登記をしたときは、当該事項を善意の第三者に対しても対抗できる。したがって、登記後に理事が法人の代表者として行った取引については、交通・通信の途絶や登記簿の滅失等、第三者が登記簿を閲覧することが客観的に不可能ないし著しく困難であるような特段の事情がない限り、民法112条(代理権消滅後の表見代理)の適用ないし類推適用の余地はない。
重要事実
被上告人(社会福祉法人)の理事Dは、昭和60年4月7日に退任して代表権を喪失し、同月17日にはその旨の登記が完了していた。しかし、退任から約8か月後、Dは依然として被上告人の代表者名義を用いて本件手形3通を振り出し、それらが上告人に譲渡された。受取人らが登記簿を閲覧することは十分に可能な状況であった。
あてはめ
本件では、Dの退任および代表権喪失の事実は、手形の振出よりも数か月前に既に登記されていた。また、受取人らが登記簿を閲覧することは十分に可能であり、登記簿の閲覧を妨げるような客観的な障害は存在しない。そのため、登記の対抗力により被上告人は代表権の欠如を第三者に対抗できる状態にあり、特段の事情は認められない。したがって、上告人が受取人の善意無過失を主張しても、民法112条を適用して被上告人の責任を認めることはできない。
結論
社会福祉法人の理事の退任が登記されている以上、特段の事情がない限り民法112条の成立は否定され、被上告人は本件手形についての責任を負わない。
実務上の射程
法人の登記に公示力(および消極的公示力の反面としての積極的公示力)が認められる場合、登記後の取引については表見代理の成立が厳格に制限されることを示した。民法112条(現行112条1項)の「善意」を基礎づける事情よりも、登記という公的な公示制度が優先されるという実務上の原則を確認するものである。
事件番号: 昭和26(オ)652 / 裁判年月日: 昭和29年3月23日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】代表取締役の代理権消滅後にされた手形裏書について、相手方がその事実を知らなかった場合には、会社法上の表見代表規定等の類推適用により、会社はその責任を免れることができない。 第1 事案の概要:上告人(会社)は、被上告人会社から手形の裏書譲渡を受けた。しかし、当該裏書を行ったDは、裏書当時すでに被上告…