死刑の量刑が維持された事例(広島の養父・妻殺害事件)
判旨
2名の殺害を含む複数の重大な犯罪について、遺族である実子が死刑回避を強く望むという重い情状がある場合でも、犯行の動機、計画性、残虐性、結果の重大性に鑑みれば、死刑の選択はやむを得ない。被告人の刑事責任の極めて重大な事案では、家族の助命嘆願があっても死刑判決を維持することが正当化される。
問題の所在(論点)
2名の生命を奪った殺人等について、最大の被害遺族ともいえる実子が被告人の生存を強く願っているという事情がある場合に、死刑を維持することが死刑選択の基準(永山基準)に照らして是認されるか。
規範
死刑の選択に当たっては、犯行の性質、動機、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、被告人の年齢、前科、犯行後の情状を総合的に考慮し、その罪責が極めて重大であって、罪刑の均衡や一般予防の見地からやむを得ない場合にのみ許される(永山基準参照)。遺族(実子)による助命嘆願は重要な情状要素となるが、他の諸要素を凌駕して結論を左右するものではない。
重要事実
被告人は、清算方針を巡り対立していた養父を殺害し、交通事故を装って生命保険金を詐取した(事件1)。その後、嘘の発覚を恐れて妻に睡眠薬を飲ませ、入浴中に溺死させて海に遺棄し、同様に保険金を詐取した(事件2)。その他、窃盗、詐欺等の多数の余罪がある。第一審および控訴審は死刑を選択。被告人と亡き妻との間の長男は、成長後に被告人と交流を深め、公判で「唯一の親を奪わないでほしい」と死刑回避を強く訴えた。
あてはめ
本件各殺人の動機は利欲的かつ極めて自己中心的であり、酌量の余地はない。態様も、鉄アレイでの殴打や交通事故・事故死への偽装工作を伴うなど、極めて計画的かつ執拗・冷酷である。2名の尊い生命を奪った結果は重大である。長男が被告人への信頼を回復し、父の生存を生き甲斐として切実に助命を求めている点は誠に重い情状である。しかし、犯行の残虐性や恩義ある養父および無辜の妻を殺害したという罪責の重大性に鑑みれば、これらの有利な事情を十分に考慮しても、死刑の科刑が著しく不当とは認められない。
事件番号: 平成19(あ)352 / 裁判年月日: 平成23年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】2名の殺害を含む一連の犯行について、動機に酌量の余地がなく殺害態様も冷酷非道である場合、被告人の病状や一定の反省等の事情を考慮しても、死刑を選択した一審判決の維持は相当である。 第1 事案の概要:被告人は、保険金詐欺の発覚を恐れ、加害者役のAに睡眠導入剤を飲ませて抵抗力を奪い、頸部圧迫により窒息死…
結論
本件各犯行の罪責は極めて重大であり、実子による助命嘆願という重い情状を考慮しても、死刑を選択した原判決は妥当である。
実務上の射程
被害遺族の中に被告人の助命を求める者がいる場合の量刑判断の射程を示す。特に、被害者の子供という「最大の被害者」が情状証人として出廷しても、犯行態様や結果の重大性といった「犯行そのものに関する事情」が極めて悪質な場合には、死刑回避の決定的理由にはならないことを示唆している。
事件番号: 平成12(あ)1634 / 裁判年月日: 平成16年11月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保険金目的の殺人2件を含む事案において、被告人が首謀者として犯行を主導し、冷酷かつ残忍な方法で実行したこと等の情状を重視し、被告人の不遇な成育歴を考慮しても死刑判決を維持した事案である。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀の上、(1)知人男性に保険を掛け殺害し保険金約5014万円を詐取、(2…
事件番号: 平成6(あ)420 / 裁判年月日: 平成11年6月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の選択が許容されるか否かは、犯行の性質、動機、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等を総合的に考慮し、その罪責が極めて重大であって、罪刑の均衡および一般予防の見地からやむを得ない場合に限られる。 第1 事案の概要:被告人は、妻の実姉を絞殺して死体を遺棄…
事件番号: 昭和62(あ)246 / 裁判年月日: 平成4年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の量刑判断においては、犯行の罪質、動機、計画性、態様、殺害方法の残忍性、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響等を総合的に考慮すべきであり、情状を酌量しても罪責が重大な場合には死刑が是認される。 第1 事案の概要:被告人は、借金返済のため、同僚の妻Bから健康保険証を奪って金員を詐取しようと計…
事件番号: 平成9(あ)719 / 裁判年月日: 平成11年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強盗殺人等の重大事件において、共犯者の一方が主導的立場にあっても、他方の主体的な関与や役割が極めて重い場合には、両者の刑責に歴然とした差異を設けるべきとは限らない。そのため、既に無期懲役が確定した共犯者との均衡を考慮して被告人を無期懲役とした原判決の量刑は、著しく正義に反するとまではいえない。 第…