死刑事件(同僚の妻子2名強殺事件)
判旨
死刑の量刑判断においては、犯行の罪質、動機、計画性、態様、殺害方法の残忍性、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響等を総合的に考慮すべきであり、情状を酌量しても罪責が重大な場合には死刑が是認される。
問題の所在(論点)
死刑が憲法31条、36条に違反しないか。また、強盗殺人、殺人等の重大な罪を犯した被告人に対し、前科がない等の有利な情状を考慮した上でも、死刑を選択することが社会通念上相当(刑訴法411条2号)といえるか。
規範
死刑が憲法36条(残虐な刑罰の禁止)や31条(適正手続)に違反しないことは判例の確立した見解である。具体的な量刑にあたっては、①犯行の罪質、②動機、③計画性、④態様(特に殺害手段・方法の残忍性)、⑤結果の重大性、⑥遺族の被害感情、⑦社会的影響等を総合考慮し、被告人の生い立ちや前科の有無といった有利な事情を考慮してもなおその罪責がまことに重大といえる場合には、死刑を選択することが許容される。
重要事実
被告人は、借金返済のため、同僚の妻Bから健康保険証を奪って金員を詐取しようと計画した。被告人は、Bを「夫が自殺未遂で病院にいる」と嘘を言っておびき出し、車内で絞殺して保険証等を強取した。さらに、Bに同行していた4歳の長男Cを橋から23メートル下の川に投げ込んで溺死させた。その後、夫に対しても嘘の電話をかけて遠方に赴かせ、その隙に保険証を悪用して100万円を詐取し、Bの遺体を海に投棄した。被告人には前科がなく、恵まれない生い立ちという事情があった。
あてはめ
本件は、金員詐取という利欲的な動機に基づき、母子2名を殺害した極めて重大な事案である。嘘をついて母子をおびき出し、抵抗できない4歳の幼児を高い橋から投げ落として溺死させるなど、殺害の手段・方法は冷酷かつ残忍である。また、夫に対しても虚偽の情報を伝えて捜索を妨害しつつ金員を詐取しており、計画性と犯行後の態様も悪質である。遺族の被害感情や社会的影響は甚大であり、被告人の不遇な生い立ちや前科がないという事情を考慮しても、その罪責は極めて重いといえる。
事件番号: 平成8(あ)168 / 裁判年月日: 平成12年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑制度は憲法36条の「残虐な刑罰」に当たらず、複数の殺人・強盗殺人事件において、動機・態様・結果の重大性等の諸事情を総合考慮し、死刑の適用がやむを得ない場合には、これを是認することができる。 第1 事案の概要:被告人は約6年半の間に、2件の殺人と2件の強盗殺人等を犯した。具体的には、店舗店番の女…
結論
憲法違反の主張は判例に照らし理由がない。また、本件の諸事情を総合考慮すれば、第一審の死刑判決を維持した原判決は相当であり、刑訴法411条を適用して破棄すべきものとは認められない。
実務上の射程
永山基準(最判昭58.7.8)を踏襲し、死刑選択の際に考慮すべき具体的要素(罪質、動機、態様等)を列挙してあてはめる際のモデルケースとなる。特に、利欲目的で無関係な幼児まで殺害した点や、犯行後の隠蔽工作の悪質性が死刑を正当化する重要な要素となる。
事件番号: 昭和62(あ)562 / 裁判年月日: 平成5年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑制度は憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」に当たらず合憲であり、死刑の適用は、罪質、動機、態様、結果の重大性等の諸情状を併せ考察し、罪刑の均衡および一般予防の見地からやむを得ない場合に限られる。 第1 事案の概要:被告人は共犯者と共謀し、保険金目的で2名を殺害(海中への突き落とし及び鉄棒での殴打…
事件番号: 平成16(あ)932 / 裁判年月日: 平成19年7月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑適用に際しては、犯行の性質、動機、態様、結果の重大性、遺族の処罰感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等を総合的に考慮し、罪責が誠に重大であって、極刑がやむを得ないと認められる場合に許される。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀の上、利得目的で2名の男性をそれぞれけん銃で頭部を…
事件番号: 昭和45(あ)92 / 裁判年月日: 昭和46年10月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の量刑判断は、犯行の性質、動機、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、被告人の年齢・前科、犯行後の情状等の諸般の事情を慎重に考慮し、やむをえないと認められる場合には許容される。 第1 事案の概要:本件における具体的な犯罪事実は判決文からは不明であるが、原判決は「諸般の事情を慎重に考慮…
事件番号: 昭和57(あ)303 / 裁判年月日: 平成2年2月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の選択は、犯行の計画性、動機、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、及び被告人の役割等を総合的に考慮し、その刑責が極めて重大であって罪刑の均衡や一般予防の観点からやむを得ない場合に認められる。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者Aと共謀の上、約1か月の短期間に、何ら落ち度のない女性2…