1 債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定は,債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものであることを要する。 2 大規模な金融機関の全ての店舗又は貯金事務センターを対象として順位付けをする方式による預貯金債権の差押命令の申立ては,差押債権の特定を欠き不適法である。 (1,2につき補足意見がある。)
1 債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定の有無の判断基準 2 大規模な金融機関の全ての店舗又は貯金事務センターを対象として順位付けをする方式による預貯金債権の差押命令の申立ての適否
(1,2につき)民事執行法143条,民事執行規則133条2項
判旨
預貯金債権の差押えにおいて、第三債務者の全店舗を対象に順位付けをして差し押さえるべき債権を表示する「全店一括順位付け方式」による申立ては、差押債権の特定(民事執行規則133条2項)を欠き、不適法である。
問題の所在(論点)
民事執行規則133条2項にいう差押債権の特定として、第三債務者の全店舗を対象に予備的な順位付けを行う方式(全店一括順位付け方式)による表示が認められるか。
規範
民事執行規則133条2項が求める差押債権の特定とは、債権差押命令の送達を受けた第三債務者において、差押えの効力が送達時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に「速やかに」かつ「確実に」差し押さえられた債権を識別できるものでなければならない。物理的な識別が可能であっても、一定の時間と手順を要し、識別完了まで差押えの効力が生じた債権の範囲を的確に把握できない方式は、第三債務者や競合債権者等の利害関係人の地位を不安定にするため、許容されない。
重要事実
事件番号: 平成24(許)1 / 裁判年月日: 平成24年7月24日 / 結論: その他
普通預金債権のうち差押命令送達時後同送達の日から起算して1年が経過するまでの入金によって生ずることとなる部分を差押債権として表示した債権差押命令の申立ては,第三債務者において,特定の普通預金口座への入出金を自動的に監視し,常に預金残高を一定の金額と比較して,これを上回る部分についてのみ払戻請求に応ずることを可能とするシ…
債権者(抗告人)が、債務者の有する銀行4行(第三債務者)に対する預貯金債権の差押えを申し立てた際、各銀行の「全ての店舗」を対象として順位付けをした。さらに、同一店舗内の預貯金についても、先行差押えの有無や預貯金種別等による順位付けを行った(いわゆる全店一括順位付け方式)。原審は、この表示が債権の特定を欠くとして申立てを却下したため、抗告人が抗告した。
あてはめ
本件申立ての方式では、大規模金融機関である第三債務者において、先順位の全店舗における預貯金の存否、先行差押えの有無、種別、残高等の調査を完了させない限り、後順位の店舗に差押えの効力が生ずるか否かが判明しない。このような調査作業には相当の時間と手順を要し、送達後直ちに、あるいは速やかに確実に債権を識別することは困難である。識別作業が完了するまで差押えの範囲が不明な状態に置かれることは、第三債務者のみならず競合債権者等の地位を著しく不安定にする。したがって、本件の表示方法は規則が求める特定の要請を満たさないといえる。
結論
本件申立ては差押債権の特定を欠き不適法であるため、却下すべきとした原決定は相当である。本件抗告を棄却する。
実務上の射程
金融機関に対する預貯金差押え全般に適用される。特に、IT化が進んだ現代においても、送達時点での即時的な識別を重視し、実務上一般的に行われていた包括的な差押え手法を否定した点で重要な意義を持つ。
事件番号: 平成13(許)30 / 裁判年月日: 平成14年6月13日 / 結論: 棄却
抵当権に基づく物上代位権の行使としてされた債権差押命令に対する執行抗告においては,被差押債権の不存在又は消滅を理由とすることはできない。
事件番号: 令和4(許)6 / 裁判年月日: 令和4年8月16日 / 結論: 棄却
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条の定める作業報奨金の支給を受ける権利に対して強制執行をすることはできない。
事件番号: 平成11(許)23 / 裁判年月日: 平成12年4月14日 / 結論: 破棄差戻
抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない。
事件番号: 平成28(許)46 / 裁判年月日: 平成29年10月10日 / 結論: 破棄自判
債権差押命令の申立書に請求債権中の遅延損害金につき申立日までの確定金額を記載させる執行裁判所の取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者が当該債権差押命令に基づく差押債権の取立てとして第三債務者から金員の支払を受けた場合,申立日の翌日以降の遅延損害金も上記金員の充当の対象となる。