抵当権に基づく物上代位権の行使としてされた債権差押命令に対する執行抗告においては,被差押債権の不存在又は消滅を理由とすることはできない。
抵当権に基づく物上代位権の行使としてされた債権差押命令に対する執行抗告において被差押債権の不存在又は消滅を理由とすることの可否
民事執行法145条5項,民事執行法193条,民法304条1項,民法372条
判旨
抵当権に基づく物上代位権の行使としての債権差押命令に対し、第三債務者は被差押債権の不存在や消滅を執行抗告の理由とすることはできない。被差押債権の存否については、別途提起される取立訴訟等において主張すべき事項である。
問題の所在(論点)
抵当権に基づく物上代位権の行使としてされた債権差押命令に対し、第三債務者が「被差押債権の不存在または消滅」を執行抗告の理由として主張することができるか。
規範
執行裁判所は、担保権の存在を証する文書の提出があり、被差押債権が物上代位の目的となる債権に該当する限り、債権の存否を考慮せずに差押命令を発すべきである。第三債務者は、債権の不存在を取立訴訟等で主張でき、債権がなければ執行が効を奏さないにすぎないため、差押命令の発付自体によって法律上の不利益を被ることはない。したがって、被差押債権の不存在や消滅は執行抗告の理由とはならない。
重要事実
抵当権者(相手方)が、抵当不動産の賃料債権に対し物上代位に基づき債権差押命令の申立てを行い、執行裁判所がこれを認めた。これに対し、賃借人(抗告人)は、(1)賃料債権は自らの債権と相殺済みで消滅している、(2)賃料のうち管理費等に相当する部分は差押えの対象に含まれない、と主張して執行抗告を申し立てた。
事件番号: 平成11(許)23 / 裁判年月日: 平成12年4月14日 / 結論: 破棄差戻
抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない。
あてはめ
抗告人が主張する「相殺による債権消滅」および「管理費相当分の対象外性」は、いずれも被差押債権である賃料債権の全部または一部が実体法上存在しないことをいうものである。これらは債権の存否に関する実体上の事由であり、手続の適法性を争う執行抗告において審理されるべき事項ではなく、取立訴訟等の後続手続で解決されるべき問題である。
結論
抗告人の主張は執行抗告の理由とならないため、抗告は棄却されるべきである。
実務上の射程
民事執行手続における「手続の明確性・迅速性」の観点から、差押段階での実体判断を否定した判例である。答案上では、執行抗告の理由が手続的瑕疵に限定されることの論拠として引用する。また、実体的な抗弁(相殺等)は取立訴訟や請求異議の訴えで主張すべきであるという手続選択の整理に用いる。
事件番号: 令和4(許)13 / 裁判年月日: 令和5年3月29日 / 結論: 破棄差戻
第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合において、上記差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令が第三債務者に送達された後に上記電子記録債権の支払がされたときは、上記支払によって民事執行法160条による上記転付命令の執行債権及び執行費用の弁済…
事件番号: 平成18(許)13 / 裁判年月日: 平成18年9月11日 / 結論: 棄却
強制執行を受けた債務者が,その請求債権につき強制執行を行う権利の放棄又は不執行の合意があったことを主張して裁判所に強制執行の排除を求める場合には,執行抗告又は執行異議の方法によることはできず,請求異議の訴えによるべきである。
事件番号: 平成23(許)34 / 裁判年月日: 平成23年9月20日 / 結論: 棄却
1 債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定は,債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものであることを要する。 2 大規模な金融機関の全ての店舗又…
事件番号: 平成10(許)2 / 裁判年月日: 平成11年5月17日 / 結論: 棄却
一 銀行甲が、輸入業者乙のする商品の輸入について信用状を発行し、約束手形の振出しを受ける方法により乙に輸入代金決済資金相当額を貸し付けるとともに、乙から右約束手形金債権の担保として輸入商品に譲渡担保権の設定を受けた上、乙に右商品の貸渡しを行ってその処分権限を与えたところ、乙が、右商品を第三者に転売した後、破産の申立てを…