1 有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合,上記投資者に生じた当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,上記投資者が,当該虚偽記載の公表後,上記株式を取引所市場において処分したときはその取得価額と処分価額との差額を,上記株式を保有し続けているときはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額)との差額をそれぞれ基礎とし,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきである。 2 有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合,当該虚偽記載が公表された後のいわゆるろうばい売りが集中することによる上場株式の市場価額の過剰な下落による損害は,当該虚偽記載と相当因果関係がないとはいえない。 (1につき補足意見及び意見がある。)
1 有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が当該虚偽記載がなければこれを取得しなかった場合における,上記投資者に生じた当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額 2 有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が当該虚偽記載がなければこれを取得しなかった場合における,当該虚偽記載の公表後のいわゆるろうばい売りによる上場株式の市場価額の下落による損害と当該虚偽記載との相当因果関係
(1,2につき)民法709条
判旨
有価証券報告書の虚偽記載がなければ上場株式を取得することはなかったと認められる場合、当該虚偽記載と相当因果関係のある損害額は、取得価額と処分価額(又は事実審口頭弁論終結時の市場価額)との差額を基礎とし、そこから虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を控除して算定すべきである。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求において、有価証券報告書の虚偽記載を信じて株式を取得した投資家に生じた「相当因果関係のある損害」の範囲および算定方法が問題となる。
規範
1. 虚偽記載がなければ株式を取得しなかったといえる場合、損害額は、原則として「取得価額と処分価額(又は事実審口頭弁論終結時の評価額)との差額」を基礎とする。 2. もっとも、一般投資家は経済情勢や個別業績等の無関係な要因による変動リスクを自ら負うべきであるから、当該虚偽記載と相当因果関係のない下落分は、上記差額から控除されるべきである。 3. ただし、公表後の「ろうばい売り」による過剰な下落は、虚偽記載の判明によって通常生ずべき事態であり、相当因果関係を否定できないため、控除の対象とはならない。 4. 以上の算定が困難な場合は、民訴法248条により相当な損害額を認定する。
重要事実
1. 被上告人Y1は、大量の他人名義株を隠蔽し、少数特定者持株数基準による上場廃止を回避するため、長年にわたり有価証券報告書等に虚偽記載を行っていた。 2. 上告人らは一般投資家であり、本件虚偽記載を信頼して取引所市場でY1株を取得した。 3. Y1が虚偽記載を公表した結果、Y1株は監理ポスト・整理ポストを経て上場廃止となり、株価は急落した。 4. 上告人らの中には、公表後に市場で売却した者と、保有し続けた者が存在する。
あてはめ
1. Y1株は虚偽記載がなければ速やかに上場廃止となっていた蓋然性が高く、一般投資家である上告人らが取引所市場でこれを取得する結果自体が生じなかったといえる。したがって「取得自体が損害」との主位的主張は、相当因果関係の枠組みにおいて理由がある。 2. 上告人らは、虚偽記載と無関係な要因(経済情勢、市場動向、業績等)による変動を想定して投資しており、そのリスクは投資者負担となる。よって、公表前の下落のうち虚偽記載と無関係な分は控除すべきである。 3. 本件公表後の下落については、本件虚偽記載と無関係な要因による下落はうかがわれず、また「ろうばい売り」は虚偽記載から生ずべき結果であるから、公表後の下落分を控除した原審の判断は誤りである。
結論
損害額は、取得価格と処分価格(又は口頭弁論終結時の評価額)の差額から、虚偽記載と無関係な要因による下落分のみを控除して算定すべきである。原審の算定には法令の違反があるため、更なる審理のため差し戻す。
実務上の射程
金融商品取引法21条の2が適用されない事案(本件のような不法行為一般)における損害算定の指針となる。特に「虚偽記載がなければ取得しなかった」場合の基本的枠組みを確立した。
事件番号: 平成22(受)755 / 裁判年月日: 平成24年3月13日 / 結論: その他
1 検察官は,金融商品取引法21条の2第3項にいう「当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者」に当たる。 2 金融商品取引法21条の2第3項にいう「虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項」とは,虚偽記載等のある有価証券報告書等の提出者等を発行者とする有価証券に対する取引所市場の評価の誤りを明らかにする…