前訴において当事者が攻撃防御を尽くした事実認定上の争点等について,前訴判決と基本的には同一の証拠関係の下における証拠評価が異なった結果,異なる事実が認定されるに至ったにすぎないなど判示の事情の下においては,前訴における相手方の主張や供述が上記のような認定事実に反するというだけでは,前訴において相手方が虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔し勝訴の確定判決を取得したというには足りず,このことを理由として不法行為に基づく損害賠償請求をすることは許されない。
前訴において相手方が虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔し勝訴の確定判決を取得したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が許されないとされた事例
民法709条
判旨
確定判決の成立過程に不法行為があったとして、既判力ある判断と矛盾する損害賠償を請求することは、原則として許されない。ただし、相手方の訴訟関与を妨げ、または虚偽の主張で裁判所を欺罔するなど、著しく正義に反し法的安定性を考慮しても容認し得ない特別の事情がある場合に限り、例外的に許容される。
問題の所在(論点)
確定判決の成立過程における不正行為(虚偽主張等)を理由として、当該判決と矛盾する損害賠償請求を行うことが、既判力の抵触との関係でどの範囲で許容されるか。
規範
確定判決と実質的に矛盾する損害賠償請求は、原則として既判力による法的安定を害するため許されない。例外として、①相手方の権利を害する意図の下、作為・不作為により相手方の訴訟手続関与を妨げた場合、あるいは②虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔する等の不正行為を行い、本来あり得ない内容の確定判決を取得・執行した等、その行為が著しく正義に反し、既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ない「特別の事情」がある場合に限り、不法行為に基づく請求が認められる。
重要事実
上告人(X)は、被上告人(Y)の仲介で土地建物を購入したが、建築制限の説明がなかったとして前訴を提起し、勝訴判決を得て確定した。その後、Yは、Xが前訴において建築制限を知っていたにもかかわらず、知らないと虚偽の供述をして裁判所を欺き勝訴判決を詐取したと主張し、不法行為に基づく損害賠償を求めて本件を提起した。原審は、Xが重要事項の説明内容や建替え意思、物件売却の事実等について虚偽の主張立証を巧妙に行い裁判所を欺罔したとして、Yの請求を一部認容した。
あてはめ
原審の判断は、前訴と同一の証拠関係の下で証拠評価や信用性判断を変えて前訴と異なる事実を認定したにすぎない。Xの主張や供述が原審の認定事実に反するというだけでは、裁判所を欺罔したとはいえず、著しく正義に反し法的安定性を考慮しても容認し得ない「特別の事情」があるとは認められない。したがって、Yが本件損害賠償請求をすることは、前訴判決の既判力による法的安定性を著しく害するものであり、許されない。
結論
本件請求は既判力の趣旨に照らし許されない。原判決中、上告人(X)敗訴部分を破棄し、被上告人(Y)の控訴を棄却する。
実務上の射程
既判力の本質的効力を重視し、判決詐取を理由とする再審(民訴法338条1項)以外の救済(不法行為請求)のハードルを極めて高く設定したもの。単なる証拠評価の不当や虚偽の疑い程度では足りず、手続保障の侵害や悪質な欺罔など「著しく正義に反する」事態を要するため、実務上の認められる範囲は極めて限定的である。
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