一 甲乙間の前訴において,甲が受訴裁判所の裁判所書記官からの照会に対して乙の就業場所が不明である旨の誤った回答をしたことにより,乙に対して訴状等の付郵便送達がされたため,乙が前訴の訴訟手続に関与する機会のないまま判決が確定した場合に,右照会に対して必要な調査を尽くすことなく安易に誤った回答をしたことにつき,甲に重大な過失があるにとどまり,甲に乙の権利を害する意図があったとは認められないという事情の下においては,乙が,甲の右不法行為を理由として,右判決に基づく債務の弁済として甲に支払った金員につき損害賠償請求をすることは,許されない。 二 前訴において相手方当事者の不法行為により第一審での訴訟手続に関与する機会を奪われたことにより被った精神的苦痛に対する慰謝料の支払を求める請求は,確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求に当たらない。
一 前訴において相手方当事者の不法行為により訴訟手続に関与する機会のないまま判決が確定した場合に右判決に基づく債務の弁済として支払った金員につき損害賠償請求をすることが許されないとされた事例 二 前訴において相手方当事者の不法行為により訴訟手続に関与する機会を奪われたことにより被った精神的苦痛に対する損害賠償請求と前訴判決の既判力
民法709条,民法710条,民訴法114条
判旨
確定判決の成立過程に相手方の不法行為があったとしても、既判力ある判断と矛盾する損害賠償請求は、相手方が権利を害する意図で訴訟関与を妨げたり虚偽主張で欺罔したりするなど、著しく正義に反する特段の事情がない限り許されない。
問題の所在(論点)
確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求が、不法行為(民法709条)として認められるための要件。
規範
確定判決の既判力による法的安定性を考慮し、判決の成立過程における相手方の不法行為を理由として既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求をすることは原則として許されない。例外的に、①相手方の権利を害する意図の下に、作為・不作為によって相手方の訴訟関与を妨げ、あるいは虚偽事実を主張して裁判所を欺罔するなど不正な行為を行い、②その結果、本来あり得べからざる内容の確定判決を取得・執行したなど、その行為が著しく正義に反し、法的安定性の要請を考慮してもなお容認し得ない「特別の事情」がある場合に限り許される。
重要事実
被告(一審原告)は、原告(一審被告)に対し貸金等請求訴訟を提起した。受訴裁判所の書記官は、被告が不在であったため、原告に対し被告の就業場所を照会した。原告担当者は、被告の勤務先を知っていたにもかかわらず、詳細な調査を怠り「就業場所不明」と安易に回答した。書記官はこの回答に基づき付郵便送達を実施し、被告不在のまま原告勝訴判決が確定した。その後、被告は本件付郵便送達が違法無効であり訴訟関与の機会を奪われたとして、不法行為に基づき支払済みの28万円等の損害賠償を求めた。
あてはめ
本件における原告(前訴原告)の行為は、受訴裁判所からの照会に対し、必要な調査を尽くさずに安易に誤った回答をした点において「重大な過失」があるにとどまる。これが「被告(前訴被告)の権利を害する意図」の下になされたものとは認められない。したがって、行為が著しく正義に反し、既判力による法的安定性の要請を考慮してもなお容認し得ないような「特別の事情」があるとはいえない。
結論
本件損害賠償請求は、確定判決の既判力に抵触するものであり、特別の事情が認められないため、請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
既判力の遮断効を不法行為によって実質的に打破するための厳格な要件(意図的な妨害や欺罔)を示した射程の長い判例である。単なる過失や、立証不十分による「不当な判決」程度では足りず、訴訟手続の根幹を揺るがす主観的意図と不正行為が必要とされる。答案では、既判力の限界を論じる際の最重要規範として用いる。
事件番号: 平成21(受)1216 / 裁判年月日: 平成22年4月13日 / 結論: 破棄自判
前訴において当事者が攻撃防御を尽くした事実認定上の争点等について,前訴判決と基本的には同一の証拠関係の下における証拠評価が異なった結果,異なる事実が認定されるに至ったにすぎないなど判示の事情の下においては,前訴における相手方の主張や供述が上記のような認定事実に反するというだけでは,前訴において相手方が虚偽の事実を主張し…