不動産賃貸あっせんのフランチャイズ事業等を展開するA社が,事業再編計画の一環としてB社を完全子会社とする目的で同社の株式を任意の合意に基づき買い取る場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,株式交換に備えて算定された上記株式の評価額が1株当たり6561円ないし1万9090円であったとしても,上記株式の買取価格をB社の設立時の株式の払込金額を基準として1株当たり5万円とする決定をしたことについて,A社の取締役が取締役としての善管注意義務に違反したということはできない。 (1) B社の株主には,A社が事業の遂行上重要であると考えていた上記フランチャイズ事業の加盟店等が含まれる。 (2) 非上場株式である上記株式の評価額には相当の幅があり,事業再編の効果によるB社の企業価値の増加も期待できた。 (3) 上記の決定に至る過程で,A社の役付取締役全員により構成される経営会議において検討がされ,弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践された。
A社が事業再編計画の一環としてB社の株式を任意の合意に基づき買い取る場合において,A社の取締役に上記株式の買取価格の決定について善管注意義務違反はないとされた事例
会社法330条,会社法355条,会社法423条1項,会社法847条,民法644条
判旨
取締役による子会社株式の取得価格の決定は、将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられており、その決定の過程及び内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務に違反しない。非上場株式の買取価格について、払込金額を基準とし、株主との友好関係維持や事業再編の効果を考慮した判断は、直近の算定額を上回っていても直ちに著しく不合理とはいえない。
問題の所在(論点)
取締役が、第三者機関の算定した株式評価額を大幅に上回る価格で子会社株式を買い取る決定をしたことが、善管注意義務違反(経営判断の不合理性)を構成するか。
規範
取締役の任務懈怠(会社法423条1項)の有無については、経営判断の原則が適用される。具体的に、事業再編計画の一環として行われる株式取得の価格決定は、専門的判断にゆだねられるべき性質のものである。したがって、取締役において、株式の客観的評価額のみならず、取得の必要性、財務上の負担、円滑な取得の必要性等を総合考慮して決定することができ、その決定の過程・内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務に違反しない。
重要事実
持株会社である参加人は、グループ再編のため子会社Aを完全子会社化することを計画した。A株の約66.7%を保有していた参加人は、残り約33.3%を保有する加盟店等との友好関係維持のため、株式交換ではなく任意買取りを選択した。価格は、設立から5年経過した時点での払込価格である1株5万円と設定。しかし、株式交換用に別途算定されたA株の評価額は約6千円〜1万9千円程度であった。株主である被上告人は、高値買いにより会社に損害を与えたとして取締役らの責任を追及した。
あてはめ
内容面では、①設立から5年であり払込金額(5万円)を基準とすることに相応の合理性があること、②加盟店等である株主との良好な関係維持は事業遂行上、有益であること、③非上場株式の評価には幅があり再編による価値増加も期待できたことから、算定額との乖離があっても著しく不合理とはいえない。手続面でも、経営会議での協議や弁護士の意見聴取を経ており、不合理な点は認められない。したがって、本件決定は取締役の裁量の範囲内にある。
結論
被告ら取締役の判断は著しく不合理とはいえず、善管注意義務違反は認められない。よって、損害賠償請求は棄却される。
実務上の射程
本判決は、経営判断の原則を価格決定の場面で明示した重要判例である。特に「著しく不合理」という基準を用い、単なる客観的評価額との乖離だけでなく、定性的な経営上の必要性(取引先との関係維持等)を広く考慮することを認めている。答案上は、取締役の裁量を広く認める文脈で引用すべきである。
事件番号: 平成25(受)1080 / 裁判年月日: 平成27年2月19日 / 結論: 破棄自判
非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し,客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には,その発行価額は,特別の事情のない限り,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)280条ノ2第2項にいう「特ニ有利ナル発行価額」に当たらない。