1 いわゆる仕手筋として知られるAが,大量に取得したB社の株式を暴力団の関連会社に売却するなどとB社の取締役であるYらを脅迫した場合において,売却を取りやめてもらうためAの要求に応じて約300億円という巨額の金員を融資金の名目で交付することを提案し又はこれに同意したYらの忠実義務,善管注意義務違反が問われた行為について,Aの言動に対して警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待できないような状況にあったということはできないという事情の下では,やむを得なかったものとしてその過失を否定することはできない。 2 会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で,当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は,商法(平成12年法律第90号による改正前のもの)294条ノ2第1項にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」利益を供与する行為に当たる。
1 いわゆる仕手筋として知られるAが大量に取得したB社の株式を暴力団の関連会社に売却するなどとB社の取締役であるYらを脅迫した場合においてAの要求に応じて巨額の金員を交付することを提案し又はこれに同意したYらの忠実義務,善管注意義務違反が問われた行為について過失を否定することができないとされた事例 2 会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為と商法(平成12年法律第90号による改正前のもの)294条ノ2第1項にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」利益を供与する行為
(1につき)商法254条3項,商法254条ノ3,商法266条1項5号,民法644条 (2につき)商法(平成12年法律第90号による改正前のもの)294条ノ2,商法(平成15年法律第134号による改正前のもの)266条1項2号
判旨
取締役が、主要取引先から不当に支出させられた資金の回収が見込めない状況で、さらなる損害拡大を防ぐ等の目的から、当該取引先の債務を代位弁済する等の決定をした場合であっても、善管注意義務(会社法330条、民法644条)違反の責任を負う場合がある。また、主要株主による不当な干渉や威迫がある状況下での意思決定であっても、直ちに取締役の任務懈怠が否定されるものではない。
問題の所在(論点)
主要株主による不当な干渉や威迫、さらには混乱の回避という動機がある場合において、会社に損害を与えることが明らかな代位弁済等の決定を行った取締役の行為は、善管注意義務に違反するか。また、利益供与(会社法120条)等の違法性も問題となるか。
規範
取締役の業務執行に関する意思決定については、その前提となる事実の認識に不注意な点がないか、及びその事実に基づく意思決定の過程・内容が通常の経営者として著しく不合理なものでないかという観点から、善管注意義務違反の有無を判断すべきである(経営判断の原則)。特に、会社に利益をもたらさないことが明らかな行為や、一部の者の利益を図る目的でなされた行為は、裁量の範囲を逸脱するものとして任務懈怠(会社法423条1項)を構成する。
重要事実
ミシンメーカーである被告会社の取締役らは、主要株主(A)の不当な要求に応じ、被告会社からAが実質支配する別会社へ200億円を支出させた。その後、当該資金の回収が困難であることが判明した。Aは、資金運用の失敗を隠蔽しつつA側へのさらなる利益供与を図るため、被告会社に対し、A側の負債(ノンバンク等への債務)を被告会社が代位弁済するよう威迫・要求した。取締役らは、Aによる混乱や社会的不信を避けるためとして、この代位弁済等を決定し実行したが、結果として被告会社に多額の回収不能損害を与えた。
あてはめ
取締役らは、本件代位弁済が被告会社にとって経済的利益を生まず、むしろ多額の損失を確実にするものであることを認識していた。主要株主Aによる威迫があったとしても、取締役は会社に対して善管注意義務を負うのであり、不当な要求を拒絶し、適切な法的措置(告訴や公示等)を講じるべき立場にある。混乱の回避という目的を考慮しても、客観的に見て会社に多額の損害を負わせる代位弁済等の選択は、経営判断としての合理性の枠内にあるとはいえず、任務懈怠といえる。また、一部の支出は株主の権利行使に関する利益供与(旧商法294条の2等)としての性質も有しており、違法性は顕著である。
結論
被告会社の取締役らは、本件代位弁済等の決定において善管注意義務を怠ったものと認められ、会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負う。
実務上の射程
経営判断の原則が適用される場面であっても、「会社にとっての利益」が全く認められない、あるいは「一部の者のための利益供与」である場合には、裁量権の逸脱が認められやすい。株主による威迫は免責事由とはならず、取締役には毅然とした対応が求められることを示す射程の長い判例である。
事件番号: 昭和46(オ)673 / 裁判年月日: 昭和48年5月22日 / 結論: 棄却
株式会社の取締役は、会社に対し、代表取締役が行なう業務執行につき、これを監視し、必要があれば、取締役会をみずから招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じてその業務執行が適正に行なわれるようにする職責がある。