1 A銀行が,第三者割当増資を計画するB社から,発行する新株の相当部分を引き受ける予定のB社の関連会社に対する引受代金相当額の融資を求められ,これを実行した場合において,次の(1)〜(4)など判示の事情の下では,A銀行の取締役らが上記求めに応じて融資を決定したことは,当該融資が,A銀行が当時採用していた企業育成路線の一環としてされたものであったとしても,A銀行の取締役としての忠実義務,善管注意義務に違反する。 (1) 当該融資は,引受予定のB社の新株を担保とし,弁済期に当該株式を売却した代金で融資金の返済を受けることを予定したもので,保証人となるB社代表者の資産も大部分はB社の株式であり,債権の回収は専らB社の業績及び株価の動向のみに依存するものであった。 (2) 当該融資の額は200億円近い巨額のものであった。 (3) 新株発行後のB社の発行済株式総数に占める担保株式の割合等に照らし,融資先が弁済期に担保株式を一斉に売却すれば株価が暴落するおそれがあることは容易に推測できた。 (4) A銀行が以前に行った調査において,B社につき,財務内容が極めて不透明であり,借入金が過大で財務内容は良好とはいえないとの報告がされていた。 2 A銀行が,新興企業育成路線に基づく積極的な融資の対象であったが大幅な債務超過となり破たんに直面するに至ったB社に対し,もはやB社の存続が不可能であるとの認識を前提に,B社がA銀行から資金の融資を受けて継続中の大規模なリゾート開発事業が完成する予定の数か月後までB社を延命させる目的でそれに必要な資金409億円の追加融資を実行した場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,A銀行の取締役らが追加融資を決定したことは,A銀行の取締役としての忠実義務,善管注意義務に違反する。 (1) 追加融資に際し新たに担保を設定した不動産等の担保価値は到底追加融資相当額に見合うものではなく,追加融資の大部分は当初から回収の見込みがなかった。 (2) 上記事業は,完成したとしてもその採算性が疑わしく,中長期的にも,上記事業を独立して継続させることにより追加融資に見合う額の債権回収が期待できたということはできない。 (3) B社を数か月間延命させたとしても,それにより関連企業の連鎖倒産を避けられたとも,B社に多額の資金を融資していた信用組合が破たんしてA銀行に支援要請が来る事態を回避できたとも考え難い。
1 銀行が,第三者割当増資を計画する企業から新株引受先として予定された当該企業の関連会社に対する引受代金相当額の融資を求められ,これを実行した場合において,融資を決定した取締役らに忠実義務,善管注意義務違反があるとされた事例 2 銀行が,積極的な融資の対象であったが大幅な債務超過となって破たんに直面した企業に対し,同企業を数か月延命させる目的で追加融資を実行した場合において,追加融資を決定した取締役らに忠実義務,善管注意義務違反があるとされた事例
商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)254条3項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)254条ノ3,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)266条1項5号,民法644条,会社法423条1項
判旨
経営破綻の危機にある関連会社への融資継続や債務保証が、取締役の善管注意義務(会社法330条、民法644条)に違反するか否かの判断基準(経営判断の原則)と、回収の見込みのない巨額の追加融資等における裁量の逸脱・濫用が認められた事例。
問題の所在(論点)
経営危機に陥り、自社に多額の債務を負う関連会社等に対し、再建可能性や回収の見込みが極めて低い状況で巨額の追加融資・債務保証を行う決定は、取締役の善管注意義務違反を構成するか。
規範
取締役の業務執行には専門的・予測的な経営判断が要求されるため、その判断過程及び内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務に違反しない(経営判断の原則)。具体的には、(1)事実の調査・検討に際し不注意な誤りがなかったか、(2)意思決定が通常の経営者として期待される水準に照らし著しく不合理でないか、という点から判断する。特に、倒産危機の関連会社への支援については、支援による自社の被害拡大回避の必要性、支援後の再建可能性、及び債権回収の見込みを慎重に検討すべきであり、これらを欠く支援は裁量の逸脱・濫用となる。
重要事実
銀行(X)の子会社であるノンバンク(Y1・Y2が取締役)は、バブル崩壊により多額の債務を抱えた不動産グループ(A社ら)に対し、既に巨額の貸付を行っていた。当時、A社らは債務超過に陥り、担保割れの状態にあったが、Y1らは「育成路線」と称して融資を継続し、さらに特定のプロジェクト(本件事業)への投資資金として1,500億円規模の追加融資や債務保証を行った。しかし、不動産市況は悪化の一途を辿り、A社らの再建案は合理的根拠を欠いていた。最終的にA社らは破綻し、Y社らに数百億円の回収不能損害が生じた。
あてはめ
Y1らは、A社らが既に深刻な債務超過にあり、既存債権の担保すら不足している事実を認識していた。本件追加融資等の際、依拠した再建案は不動産価格の上昇を前提とした楽観的なものであり、客観的な情勢変化に照らせば実現可能性が著しく低いといえる。このような状況下で、さらにリスクを拡大させる巨額の資金投入を行うことは、既存債権の回収を図るという目的を達成する手段として合理性を欠く。したがって、Y1らの判断は、当時の通常の経営者に期待される水準に照らし、その過程および内容において著しく不合理なものであったと解される。
結論
被告ら(Y1・Y2ら)の判断には経営判断の裁量を逸脱・濫用した過失があり、善管注意義務違反(任務懈怠)が認められる。よって、連帯して会社(Xが代位)に対し、回収不能となった損害を賠償する責任を負う。
実務上の射程
本判決は、経営判断の原則が適用される場面であっても、客観的に再建不能な対象への「追い貸し」や、合理的な根拠を欠く楽観的な見通しに基づく意思決定は、裁量の範囲外として法的責任を免れないことを示した。特に金融機関やその子会社の取締役にとって、リスク管理義務の厳格な履行が求められる指標となる。
事件番号: 平成19(受)1056 / 裁判年月日: 平成21年11月27日 / 結論: 破棄差戻
A銀行が,県から要請を受け,県において再建資金の融資を計画していたB社に対し,上記融資が実行されるまでのつなぎ融資として9億5000万円を融資した後に,B社に追加融資をしてもその回収を容易に見込めない一方で,これをしなければB社が破綻,倒産する可能性が高く,県のB社に対する融資により回収することを予定していた上記つなぎ…