A銀行の支店の副支店長が,B社が支払可能残高を超えて振り出した他行を支払銀行とする小切手を交換に回す前に即日入金の上払い戻す処理を繰り返し,その結果,A銀行が,B社に対して約48億円の無担保債権を有することになったことから,その保全を図る目的でB社の所有する不動産の担保提供を受けようとしたところ,B社からその条件として20億円の追加融資を求められ,これを実行した場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,A銀行の取締役らが追加融資を決定したことは,上記無担保債権の存在が判明してから短期間のうちにその対処方針等を決定しなければならないという時間的制約があったとしても,A銀行の取締役としての忠実義務,善管注意義務に違反する。 (1) B社は,別途融資を受けるなどする以外にはA銀行に対する既存の債務を返済する見通しがなかった上,資金繰りが悪化して近日中に不渡りを出すことが危ぶまれる状況にあり,追加融資の使途及び返済の見通しも明らかでなかった。 (2) 担保不動産の評価に関する判断資料は,不動産鑑定士により地上げ途上の物件も含めてすべてを更地として評価されたおよそ実態とかけ離れた評価額及び裏付けのないB社自身による評価額のみであった。 (3) 追加融資決定時において,担保不動産は,確実な担保余力を有することが見込まれる状態にはなかった。
A銀行が,B社に対して有する無担保債権につきB社から担保を提供する条件として追加融資を求められ,これを実行した場合において,追加融資を決定した取締役らに忠実義務,善管注意義務違反があるとされた事例
商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)254条3項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)254条ノ3,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)266条1項5号
判旨
取締役が、資金繰り悪化により破綻が危ぶまれる債務者に対し、既存債権の保全を目的として追加融資を行う判断は、客観的な資料に基づき、追加融資分を確実に回収できる担保余力が認められない限り、経営判断の裁量を逸脱し、善管注意義務に違反する。
問題の所在(論点)
経営危機に陥っている債務者に対し、既存債権の回収・保全を目的として行われた追加融資の判断について、取締役の善管注意義務違反(旧商法266条1項5号)が認められるか。
規範
取締役の融資判断における善管注意義務・忠実義務違反の有無は、当時の状況下で、取締役としてなすべき調査・検討を経てなされた合理的判断といえるか否かにより決せられる。特に、既に健全な貸付先とは認められない債務者に対し、新たなリスクを生じさせる融資を行う場合、その判断に合理性があるといえるためには、原則として、通常予測できない価格下落がない限り当該融資を確実に回収できる「確実な担保余力」が客観的な判断資料に基づき認められる必要がある。
重要事実
銀行の代表取締役らである被上告人らは、支店長が独断で行った多額の「当日他券過振り(実質的な無担保与信)」による約48億円の焦付きを認識した。債務者(B不動産)は仕手戦等で資金繰りが悪化し不渡り寸前であったが、既存債権(48億円)の保全のために不動産を担保提供する条件として、追加で20億円の融資を要求した。被上告人らは、時間的制約がある中で、不動産鑑定士による簡便な口頭報告(地上げ途上の物件をすべて更地評価した非現実的な高額査定)を鵜呑みにし、客観的な資料を精査しないまま、合計68億円超の融資(追加融資含む)を決定した。その後、債務者は破綻し、追加融資分についても多額の回収不能が生じた。
あてはめ
本件追加融資は、健全な貸付先ではない債務者に対し新たなリスクを生じさせるものであり、債権回収を第一義とすべき取締役にとって原則として許容されない。本件では、鑑定士の評価額は実態とかけ離れた更地前提の数値であり、客観的裏付けに欠けていた。被上告人らは他に客観的資料を検討せず、安易に「確実な担保余力」があると判断しており、融資決定からわずか5か月後の内部調査で担保余力が大幅に不足していた事実からも、決定時の判断が妥当であったとはいえない。したがって、時間的制約を考慮しても、本件融資判断は著しく不合理である。
結論
被上告人らの判断は経営判断の範囲を逸脱した不合理なものであり、善管注意義務・忠実義務に違反する。よって、追加融資により生じた損害について連帯して賠償責任を負う。
実務上の射程
救済融資や追い貸しにおける経営判断の枠組みを示した重要判例である。既存債権の保全という正当な目的があっても、追加リスクをカバーする「確実な担保余力」の存在を客観的資料で確認していない場合は、義務違反と判断されやすい。答案では、融資先が「不健全な債務者」であることを指摘した上で、調査プロセスのずさんさと、担保余力判断の客観性の欠如を論じる際に活用する。
事件番号: 平成19(受)1056 / 裁判年月日: 平成21年11月27日 / 結論: 破棄差戻
A銀行が,県から要請を受け,県において再建資金の融資を計画していたB社に対し,上記融資が実行されるまでのつなぎ融資として9億5000万円を融資した後に,B社に追加融資をしてもその回収を容易に見込めない一方で,これをしなければB社が破綻,倒産する可能性が高く,県のB社に対する融資により回収することを予定していた上記つなぎ…