A銀行が,県から要請を受け,県において再建資金の融資を計画していたB社に対し,上記融資が実行されるまでのつなぎ融資として9億5000万円を融資した後に,B社に追加融資をしてもその回収を容易に見込めない一方で,これをしなければB社が破綻,倒産する可能性が高く,県のB社に対する融資により回収することを予定していた上記つなぎ融資まで回収不能となるおそれがある状況の下で,B社に対し,約3年の間に数十回にわたり合計8億5000万円余りの追加融資をした場合において,(1)上記追加融資を続ける過程で,A銀行は,県の担当者から,知事がB社の創業者であるC及びその親族をB社の経営から排除することを県のB社に対する融資の条件とする意向を示している旨の連絡を受けたこと,(2)その当時,法的手続を通じてC及びその親族をB社の経営から排除することは困難な状況にあり,その後も,同人らを排除することができない状況が続いたこと,(3)その間,A銀行は,県に対し,2度にわたり期限を定めて県のB社に対する融資の実行を求めたにもかかわらず,県は2度目の期限も徒過し,その時点で,上記(1)の連絡を受けてから10か月以上が経過していたこと,(4)上記時点までには,A銀行自身も,資産査定において,B社の債務者区分を要注意先から破綻懸念先に変更するに至っていたことなど判示の事情の下では,上記時点以後は,A銀行の取締役らにおいて,上記つなぎ融資の回収原資をもたらす県のB社に対する融資が実行される相当程度の確実性があり,その実行までB社を存続させるために追加融資をした方が,追加融資分が回収不能になる危険性を考慮しても全体の回収不能額を小さくすることができると判断することは,著しく不合理であり,上記時点以後の3億0500万円の追加融資については,これを決定したA銀行の取締役らに善管注意義務違反がある。
A銀行が,県から要請を受け,県において再建資金の融資を計画していたB社に対し,上記融資が実行されるまでのつなぎ融資をした後に,B社に追加融資をしてもその回収を容易に見込めない一方で,これをしなければB社が破綻,倒産する可能性が高く,上記つなぎ融資まで回収不能となるおそれがある状況の下で,B社に対して追加融資をした場合において,その追加融資の一部につき,これを決定したA銀行の取締役らに善管注意義務違反があるとされた事例
商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)254条3項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)266条1項5号,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)267条,民法644条,会社法423条1項,会社法847条
判旨
金融機関の取締役が、経営難の債務者に対し、公的融資による既存債権の回収を目的として追加融資を行うことは、全体の回収不能額を減少させると判断することに合理性がある場合に限り、善管注意義務に違反しない。しかし、公的融資の実行条件である経営改善の見込みが客観的に失われた後も漫然と融資を継続することは、経営判断の合理性を欠き、善管注意意志務違反を構成する。
問題の所在(論点)
回収見込みが極めて低い債務者に対し、既存債権の回収を図る目的で追加融資を行う判断が、取締役の善管注意義務に違反しないための要件及びその限界点。
規範
取締役の善管注意義務(商法266条1項5号、現会社法330条・355条)に関し、回収見込みの乏しい債務者への追加融資が適法となるには、追加融資を行わなければ既存債権の回収も不能になるという状況下で、将来の公的融資等による「全体の回収不能額を小さくすることができる」との判断(回収見込判断)に合理性が認められることを要する。判断の合理性は、公的融資実行の確実性や、前提となる経営改善の進捗状況等の客観的事実に照らして決すべきである。
重要事実
銀行である補助参加人は、高知県(県)からの要請を受け、県による直接融資(本件県融資)が実行されるまでの「つなぎ融資」を、経営悪化中のD事業(後の訴外会社)に対し実行した。その後、県知事が「経営陣の排除」を条件に県融資をストップさせたが、銀行は県担当者の再建言明を信じ、追加融資を継続した。しかし、2度にわたる期限設定後も経営陣排除は進まず、訴外会社は「破綻懸念先」に区分された。それでも銀行は、さらに約1年半にわたり追加融資(本件追加融資3)を実行し続けた。
あてはめ
本件追加融資1・2については、県側から前向きな言明があり、経営体制整備の動きもあったため、回収見込判断に合理性が認められる。しかし、本件追加融資3の時点では、知事の拒絶回答から10ヶ月以上経過し、銀行自ら「破綻懸念先」と判定しており、県融資による回収の確実性は客観的に失われていた。県担当者の主観的な協力言明があったとしても、客観的情勢に照らせば、追加融資は単に回収不能額を増大させるものに過ぎず、経営判断としての合理性を著しく欠いている。
結論
本件追加融資1・2については義務違反を否定した原審を是認するが、本件追加融資3(一部回収済みを除く)については、決裁に関与した取締役らの善管注意義務違反を認め、原判決を破棄・差し戻す。
実務上の射程
「追い貸し」の適法性に関するリーディングケース。既存債権を守るための追加融資(レスキュー融資)であっても、客観的に回収の蓋然性が失われた段階で「経営判断の原則」による免責は受けられなくなる。答案では、融資継続の「目的(全体損害の最小化)」と「手段の合理性(客観的な回収可能性)」を分けて検討する際に用いる。
事件番号: 平成17(受)1440 / 裁判年月日: 平成20年1月28日 / 結論: 破棄自判
1 A銀行が,第三者割当増資を計画するB社から,発行する新株の相当部分を引き受ける予定のB社の関連会社に対する引受代金相当額の融資を求められ,これを実行した場合において,次の(1)〜(4)など判示の事情の下では,A銀行の取締役らが上記求めに応じて融資を決定したことは,当該融資が,A銀行が当時採用していた企業育成路線の一…