1 破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際し,賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に破産者が差し入れていた敷金を充当する旨の合意をし,質権の設定された敷金返還請求権の発生を阻害したことは,当時破産財団に上記賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており,これを現実に支払うことに支障がなかったなど判示の事情の下では,質権設定者の質権者に対する目的債権の担保価値を維持すべき義務に違反する。 2 破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際して賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に破産者が差し入れていた敷金を充当する旨の合意をし,質権の設定された敷金返還請求権の発生を阻害したことが,質権設定者の質権者に対する目的債権の担保価値を維持すべき義務に違反する場合であっても,その義務違反の有無が,破産債権者のために破産財団の減少を防ぐという破産管財人の職務上の義務と質権設定者が質権者に対して負う上記義務との関係をどのように解するかによって結論の異なり得る問題であって,この点について論ずる学説や判例も乏しかったことや,破産管財人が上記合意をするにつき破産裁判所の許可を得ているという事情の下では,破産管財人は,質権者に対し,善管注意義務違反の責任を負うということはできない。 3 破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際し,賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に破産者が差し入れていた敷金を充当する旨の合意をし,上記賃料等の現実の支払を免れた場合において,当時破産財団には上記賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており,これを現実に支払うことに支障がなかったなど判示の事情の下では,破産管財人は,敷金返還請求権の質権者に対し,敷金返還請求権の発生が阻害されたことにより優先弁済を受けることができなくなった金額につき不当利得返還義務を負う。 (2につき補足意見がある。)
1 破産管財人が破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除した際に賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をして質権の設定された敷金返還請求権の発生を阻害したことが質権設定者の質権者に対する目的債権の担保価値を維持すべき義務に違反するとされた事例 2 破産管財人が破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除した際に賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をして質権の設定された敷金返還請求権の発生を阻害しても質権者に対して善管注意義務違反の責任を負うとはいえないとされた事例 3 破産管財人が破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除した際に賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をして上記賃料等の現実の支払を免れた場合において破産管財人は敷金返還請求権の質権者に対して不当利得返還義務を負うとされた事例
(1〜3につき)民法362条,民法619条2項,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)47条7号,8号,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)49条,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)50条,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)95条,破産法65条1項,破産法148条1項7号,8号,破産法151条
判旨
破産管財人が、破産財団に属する建物の賃借人に対し、破産法12条(現行163条等参照)所定の善管注意義務に基づき、賃貸借契約解除後の明渡し未了期間に相当する賃料相当損害金等を請求しなかったことが、善管注意義務違反に当たらないとされた事例。
問題の所在(論点)
破産管財人が破産財団に属する債権(賃料相当損害金等)の取り立てをあきらめた判断は、破産法上の善管注意義務に違反するか。
規範
破産管財人の善管注意義務(破産法163条1項等)違反の有無を判断するに際しては、破産手続の目的である債権者全体への公平かつ適正な配当の実現に向けた、管財人の合理的な裁量を尊重すべきである。管財人が、特定の債権を取り立てない判断をしたことにつき、客観的にみて、債権の回収可能性、訴訟追行に伴う費用やリスク、配当への影響等を踏まえ、その判断に合理的な理由があると認められる場合には、善管注意義務に違反しないと解すべきである。
重要事実
破産管財人(被告)は、破産会社が賃貸していた建物について、賃借人に対し、賃料不払を理由に賃貸借契約を解除し明渡しを求めた。賃借人が任意に退去しなかったため、管財人は訴えを提起して勝訴判決を得て明渡しを完了させた。その後、管財人は当該賃借人に対し、解除後の未払賃料相当損害金(約3131万円)や残置物処理費用等の債権を有していたが、賃借人に十分な資力がないと判断し、これらの債権の回収を断念した。これに対し、他の債権者(原告)が、管財人の債権回収怠慢が善管注意義務違反に当たるとして損害賠償を求めた。
あてはめ
本件において、賃借人は多額の負債を抱え、資力が乏しい状態であったことが伺われる。管財人が強制執行等の法的手段を講じても、多額の費用を要する一方で、実効的な回収が望める客観的な事情は認められない。破産管財人は、限られた財団の中から配当原資を確保すべき立場にあり、回収見込みの低い債権のために多額の訴訟費用や執行費用を投じることは、かえって他の債権者全体の利益を損なうおそれがある。したがって、回収可能性を慎重に吟味した上で取立てを行わないとした判断は、破産手続における管財人の合理的な裁量の範囲内といえる。
結論
管財人の判断には正当な理由があり、善管注意義務に違反するとはいえない。原告の請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
破産管財人の業務執行全般(債権回収、訴訟の提起・維持、財産処分等)における過失責任の有無を判断する際の、裁量論の枠組みとして活用できる。
事件番号: 平成17(受)2126 / 裁判年月日: 平成19年4月24日 / 結論: その他
弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成する。 …
事件番号: 平成17(オ)184 / 裁判年月日: 平成18年12月21日 / 結論: その他
破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際して破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をし,上記賃料等の現実の支払を免れたことにより,敷金返還請求権の質権者に対し不当利得返還義務を負う場合において,法律上の原因の有無が,破産債権者のために破産財団の減少を防ぐという破産管財人の職務上の義務と…