破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際して破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をし,上記賃料等の現実の支払を免れたことにより,敷金返還請求権の質権者に対し不当利得返還義務を負う場合において,法律上の原因の有無が,破産債権者のために破産財団の減少を防ぐという破産管財人の職務上の義務と質権設定者が質権者に対して負う目的債権の担保価値を維持すべき義務との関係をどのように解するかによって結論の異なり得る問題であって,この点について論ずる学説や判例も乏しかったことや,破産管財人が上記合意をするにつき破産裁判所の許可を得ているという事情の下では,破産管財人を悪意の受益者であるということはできない。
破産管財人が破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除した際に破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をして上記賃料等の現実の支払を免れたことにより敷金返還請求権の質権者に対し不当利得返還義務を負う場合において破産管財人が悪意の受益者であるとはいえないとされた事例
民法362条,民法619条2項,民法703条,民法704条,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)47条7号,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)47条8号,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)49条,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)50条,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)95条,破産法65条,破産法148条1項7号,破産法148条1項8号,破産法151条
判旨
敷金返還請求権に質権が設定された場合、質権設定者は質権者に対し、正当な理由なく未払債務を生じさせて当該請求権の発生を阻害しない義務を負い、その地位は破産管財人にも承継される。破産管財人が、財団に十分な資金がありながら現実に賃料等を支払わず、敷金に充当させて当該請求権を消滅させる行為は、特段の事情がない限り、不当利得を構成する。
問題の所在(論点)
破産管財人が、破産宣告後の賃料等(財団債権)について、財団に資金があるにもかかわらず敷金充当により処理した行為が、敷金返還請求権上の質権者に対する義務違反となり、不当利得を構成するか。
規範
1. 敷金返還請求権が質権の目的とされた場合、質権設定者は質権者に対し、当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い、正当な理由なく未払債務を生じさせてその発生を阻害してはならない。 2. 質権は破産手続において別除権として取り扱われ、破産管財人は質権設定者が負う上記義務を承継する。 3. 破産管財人が、破産財団に賃料等を支払うに足りる資金があるにもかかわらず、現実に支払わず敷金充当により債務を消滅させ、質権者の優先弁済権を害した場合は、正当な理由がある等の特段の事情がない限り、破産財団は不当利得返還義務を負う。
事件番号: 平成17(受)1344 / 裁判年月日: 平成18年1月23日 / 結論: 棄却
1 破産者は,破産手続中に自由財産の中から破産債権に対して任意の弁済をすることを妨げられない。 2 地方公務員共済組合の組合員の破産手続中にその自由財産である退職手当の中から地方公務員等共済組合法115条2項所定の方法により組合員の組合に対する貸付金債務についてされた弁済が,組合員による任意の弁済であるというためには,…
重要事実
破産会社Aは、ビル賃貸借に際し敷金約6050万円を差し入れ、当該返還請求権に各銀行のため質権を設定した。Aが破産し、上告人(破産管財人)が選任された。上告人は、破産宣告後の賃料等(財団債権)について、破産財団に支払に十分な銀行預金が存在していたにもかかわらず、現実に支払わず賃貸人と合意して敷金を充当させた。その結果、敷金返還請求権が消滅したため、質権を承継した被上告人が、優先弁済権を害されたとして不当利得返還を求めた。
あてはめ
1. 破産管財人は、質権設定者が負う担保価値維持義務を承継している。 2. 本件では、合意解除時に財団には数億円の預金があり、財団債権である宣告後賃料等を現実に支払うことに支障はなかった。 3. それにもかかわらず現実に支払わず敷金充当を行った行為は、質権者の優先弁済権を阻害するものであり、破産債権者の配当増大という目的があったとしても、財団債権が優先されるべき破産手続上、正当な理由とはいえない。 4. したがって、破産財団は支払を免れた賃料相当額につき、法律上の原因なく利得し、質権者に損失を与えたといえる。
結論
上告人(破産管財人)は、敷金充当により消滅した返還請求権のうち、被上告人の質権相当額について、不当利得として返還する義務を負う。
実務上の射程
敷金返還請求権に質権・譲渡担保が設定されている場合の破産管財人の職務限界を画した。財団債権である賃料等を、十分な資力があるのに敷金から相殺・充当して質権者を害することは許されない。ただし、本判決は「悪意の受益者」としての利息までは認めておらず、管財人の善管注意義務違反(損害賠償)の成立については、法的判断の困難性を理由に否定的な示唆を与えている点に注意を要する。
事件番号: 平成21(受)247 / 裁判年月日: 平成21年11月9日 / 結論: 破棄自判
民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず,悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではない。
事件番号: 平成18(受)1666 / 裁判年月日: 平成19年7月17日 / 結論: その他
貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領したが,その受領につき貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用が認められないときは,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情がある場合でない限り,民法704条の「悪意の受…
事件番号: 平成21(受)47 / 裁判年月日: 平成21年9月4日 / 結論: その他
貸金業者が借主に対し貸金の支払を請求し借主から弁済を受ける行為が不法行為を構成するのは,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られ,この理は…
事件番号: 平成21(受)319 / 裁判年月日: 平成21年12月4日 / 結論: その他
更生会社であった貸金業者において,届出期間内に届出がされなかった更生債権である過払金返還請求権につきその責めを免れる旨主張することは,管財人又は更生会社が,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることやその届出をしないと更正会社がその責めを免れることにつき注意を促さず,保全管理人が上記貸金業者の発行したカ…