民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず,悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではない。
民法704条後段の規定の趣旨
民法704条後段,民法709条
判旨
民法704条後段は悪意の受益者が不法行為の要件を充足する場合にその責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず、同条項に基づき不法行為責任とは異なる特別の損害賠償責任を負わせるものではない。
問題の所在(論点)
民法704条後段の損害賠償規定は、悪意の受益者に対して不法行為責任(民法709条等)とは別個の独立した損害賠償責任を創設したものか、あるいは不法行為責任の成立を前提とした注意規定にすぎないか。
規範
不当利得制度は公平の観念に基づき利得の返還義務を課すものであり、被害者の損害補填を目的とする不法行為制度とは趣旨を異にする。不当利得制度において受益者の利益を超えて損失者の損害まで賠償させることは同制度の趣旨ではない。したがって、民法704条後段は悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて責任を負うことを確認的に規定したものであり、不法行為責任とは別個の特別の責任を定めたものではない。
重要事実
過払金が発生しているにもかかわらず、貸金業者である上告人が残元金の存在を前提として過払金の受領を継続した。被上告人は、この行為により精神的苦痛を被ったと主張し、不当利得返還請求に加え、民法704条後段に基づく損害賠償(弁護士費用相当額)および民法709条に基づく慰謝料等を請求した。原審は、上告人の行為に不法行為上の違法性は認めなかったものの、704条後段は悪意の受益者の責任を加重した特別な責任であるとして、同条項に基づく損害賠償請求を一部認容した。
事件番号: 平成21(受)47 / 裁判年月日: 平成21年9月4日 / 結論: その他
貸金業者が借主に対し貸金の支払を請求し借主から弁済を受ける行為が不法行為を構成するのは,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られ,この理は…
あてはめ
民法704条後段が独自の責任を定めたものではない以上、同条項に基づく損害賠償が認められるためには、前提として不法行為の要件(違法性等)を充足する必要がある。本件において、上告人が過払金を受領し続けた行為について、不法行為に当たらない(違法性が認められない)とした原審の判断は正当である。そうであれば、不法行為の要件を充足しない以上、民法704条後段に基づく損害賠償責任も成立し得ない。
結論
民法704条後段は不法行為責任と異なる特別の責任を定めたものではないため、本件行為が不法行為を構成しない以上、同条後段に基づく損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
不当利得返還請求において悪意の受益者から損害賠償を勝ち取るためには、別途不法行為(709条)の要件を個別に主張・立証する必要があることを示した。実務上、704条後段を独立した請求原因として構成することはできず、同条項はあくまで不法行為責任の発生を前提とした「損害」の範囲等に関する規定として機能する。
事件番号: 平成21(受)1192 / 裁判年月日: 平成21年9月4日 / 結論: 棄却
いわゆる過払金充当合意(過払金発生当時他の借入金債務が存在しなければ過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意)を含む基本契約に基づく金銭消費貸借の借主が利息制限法所定の制限を超える利息の支払を継続したことにより過払金が発生した場合においても,悪意の受益者である貸主は過払金発生の時から民法704条前段所…
事件番号: 平成18(受)1666 / 裁判年月日: 平成19年7月17日 / 結論: その他
貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領したが,その受領につき貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用が認められないときは,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情がある場合でない限り,民法704条の「悪意の受…
事件番号: 平成18(受)276 / 裁判年月日: 平成19年7月13日 / 結論: 破棄差戻
利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領した貸金業者が,その預金口座への払込みを受けた際に貸金業の規制等に関する法律18条1項に規定する書面を債務者に交付していなかったために同法43条1項の適用を受けられない場合において,当該貸金業者が,事前に債務者に約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載した償還表を交付してい…
事件番号: 平成17(オ)184 / 裁判年月日: 平成18年12月21日 / 結論: その他
破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際して破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をし,上記賃料等の現実の支払を免れたことにより,敷金返還請求権の質権者に対し不当利得返還義務を負う場合において,法律上の原因の有無が,破産債権者のために破産財団の減少を防ぐという破産管財人の職務上の義務と…