市立小学校又は中学校の教諭らが,ある年度の合計8か月の期間中,勤務時間外に職務に関連する事務等に従事していた場合において,上記教諭らの勤務する学校における上司である各校長は上記教諭らに対し時間外勤務を明示的にも黙示的にも命じておらず,上記教諭らは強制によらずに各自が職務の性質や状況に応じて自主的に上記事務等に従事していたものというべきであること,上記期間中又はその後において上記教諭らに外部から認識し得る具体的な健康被害又はその徴候が生じていたとは認められないことなど判示の事情の下では,上記期間中,上記各校長において,上記教諭らの職務の負担を軽減させるための特段の措置を採らなかったとしても,上記教諭らの心身の健康を損なうことがないよう注意すべき義務に違反した過失があるとはいえない。
市立小学校又は中学校の教諭らが勤務時間外に職務に関連する事務等に従事していた場合において,その上司である各校長に上記教諭らの心身の健康を損なうことがないよう注意すべき義務に違反した過失があるとはいえないとされた事例
国家賠償法1条1項,国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(平成15年法律第117号による改正前のもの)10条,国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(平成15年法律第117号による改正前のもの)11条,公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法5条,公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法6条,地方公務員法(平成15年法律第104号による改正前のもの)58条3項,職員の給与等に関する条例(昭和31年京都府条例第28号。平成16年京都府条例第19号による改正前のもの)37条2項,職員の給与等に関する条例(昭和31年京都府条例第28号。平成16年京都府条例第19号による改正前のもの)37条3項
判旨
公立学校の教諭らが勤務時間外に業務に従事していたとしても、校長による明示または黙示の時間外勤務命令が認められない限り、給特法等に違反する違法な時間外勤務をさせたとはいえない。また、外部から認識し得る具体的な健康被害やその徴候が生じていない状況下では、校長に安全配慮義務違反(注意義務違反)の過失を認めることはできない。
問題の所在(論点)
1. 校長による明示の命令がない状況で、教諭の長時間勤務が給特法等に違反する黙示の職務命令に基づくものとして国賠法上の違法性を有するか。 2. 具体的健康被害が生じていない状況において、設置者(校長)に安全配慮義務違反(健康確保に向けた事務配分等の措置を講じる義務の懈怠)が認められるか。
規範
1. 公務員に対する国家賠償法1条1項の責任について、給特法等の趣旨に鑑み、校長等の明示または黙示の時間外勤務命令がない限り、原則として違法の評価は受けない。 2. 使用者(設置者)は、労働者の業務遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して心身の健康を損なわないよう注意する義務(安全配慮義務)を負う。この義務違反の有無は、具体的な健康状態の悪化やその徴候を認識・予見し得たか否かによって判断される。
重要事実
公立小中学校の教諭Xらが、研究発表の準備、生徒指導、部活動顧問、教材作成等のために、相当な時間の時間外勤務(週40時間超など)を行っていた。校長らは個別の具体的な指示や時間外勤務命令を直接出していなかったが、Xらは業務量から放課後や自宅での作業を余儀なくされていた。Xらに具体的な疾病等の健康被害は生じていなかったが、原審は過重な勤務状態を放置したことが配慮義務違反に当たると判断したため、設置者である京都市が上告した。
あてはめ
1. 事実関係によれば、校長は授業運営等について具体的な指示をしておらず、書面・口頭での勤務命令もなかった。Xらは職務の性質上、自主的に事務に従事していたといえ、黙示の命令も認められないため、給特法違反の違法性はない。 2. Xらには外部から認識し得る具体的な健康被害やその徴候が生じていた事実はなく、記録上もうかがえない。したがって、仮に強度のストレスが生じていたとしても、校長が健康状態の変化を認識・予見することは困難であり、負担軽減措置を採らなかったことに過失があるとはいえない。
結論
校長らの職務上の行為に国賠法上の違法および過失は認められず、上告人(京都市)は賠償責任を負わない。原判決を破棄し、被上告人(教諭ら)の請求を棄却する。
実務上の射程
給特法下の教職員の長時間労働について、国賠法上の責任追及を厳しく制限する射程を持つ。単なる長時間労働の存在だけでは足りず、①校長による具体的な指揮命令(黙示を含む)の存在、または②具体的な健康被害の発生とその予見可能性という高いハードルを課している。答案上は、給特法による残業代不支給の枠組みと、安全配慮義務における「予見可能性」の要件を切り分けて論じる際に参照すべき判例である。
事件番号: 昭和50(オ)930 / 裁判年月日: 昭和52年10月25日 / 結論: その他
高校生が、授業中の態度や過去の非行事実につき担任教師から三時間余にわたり応接室に留めおかれて反省を命ぜられたうえ、頭部を数回殴打されるなど違法な懲戒を受け、それを恨んで翌日自殺した場合であつても、右懲戒行為がされるに至つた経緯等とこれに対する生徒の態度等からみて、教師としての相当の注意義務を尽くしたとしても、生徒が右懲…