県立高校のラグビー部顧問兼監督教諭が、社会人ラグビーチームの要請に応じて他の県立高校のラグビー部員に対して右社会人チームへの参加を呼びかけポジションの指定をしたとしても、他校の右部員に対し自校のラグビー部員と同様の指揮監督権を有していたと認められるような特段の事情のない限り、他校の右部員に対して公権力を行使したことにあたらない。
県立高校のラグビー部顧問兼監督教諭が社会人ラグビーチームの要請に応じて他の県立高校のラグビー部員に対して右社会人チームへの参加を呼びかけポジションの指定をしたことが右部員に対して公権力を行使したことにあたらないとされた事例
国家賠償法1条1項
判旨
公立高校の教諭が他校の生徒に対し、練習試合への参加を呼びかけポジションを指名したとしても、当然に同教諭の指揮監督下に置かれたとはいえず、国家賠償法1条1項の「公権力の行使」にあたるとするには、同教諭が当該生徒に対し自校生徒と同様の指揮監督権を有していたと認められる特段の事情を要する。
問題の所在(論点)
1. 公立高校の教諭が他校の生徒を練習試合に参加させた行為が、国家賠償法1条1項の「公務員が職務を行うについて」されたものといえるか。 2. 身体的接触を伴う激しいスポーツにおいて、指導者が高校生を成人の社会人チームと対戦させる際、どのような注意義務を負うか。
規範
1. 公務員が、本来直接の指揮監督権を持たない他校の生徒を指導した場合において、当該行為が国家賠償法1条1項の「公権力の行使」としての職務行為にあたるというためには、当該教諭が当該生徒に対し、自校の生徒に対すると同様の指揮監督権を有していたと認められる「特段の事情」を要する。 2. ラグビー等の危険を伴うスポーツ指導における注意義務は、対戦相手の技能・体力と生徒側のそれらを具体的に比較し、両者に格段の差があり事故発生を予測させるような較差があるか否かを基準に判断すべきである。
重要事実
公立G高校のラグビー部顧問H教諭は、遠征先で社会人チームから人員補充を要請され、自校部員のほか、その場に居合わせた他校(E高校)の主将Dを含む生徒3名に対し「誰か出てやってくれないか」と声をかけ、ポジションを指定して社会人チームとの練習試合に参加させた。Dは試合中に社会人選手からタックルを受けて転倒し、頸髄損傷により死亡した。Dの遺族が、H教諭の公権力行使における過失を理由に、設置者である静岡県に対し国家賠償請求を行った。
あてはめ
1. 本件において、Dは社会人チームの要請に基づき不足員を補充するために参加したのであり、H教諭の呼びかけがあったからといって、当然に同教諭の指揮監督下に置かれたとはいえない。DがG高校のクラブ活動に参加・補助した事実もなく、自校生徒と同様の指揮監督権を認めるべき「特段の事情」の存否について審理が必要である。 2. 注意義務違反の有無については、単に社会人チームが技能・体力で勝るという抽象的な事実だけでなく、D個人の技能等と比較して、死亡事故等の発生を予見させるほどの具体的な較差があったか否かを検討すべきであるが、原審はその点について十分な審理を行っていない。
結論
他校の生徒に対する指導が職務行為に該当するためには、自校生徒と同視できる指揮監督権の存在という特段の事情が必要であり、また注意義務の判断には具体的な実力差の認定を要する。これらを欠いた原判決には法令解釈の誤りと審理不尽があり、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
本判決は、公立学校の教諭による「職務行為」の範囲が他校の生徒にまで及ぶかという限界事例を示したものである。答案上は、(1)国賠法1条1項の「職務を行うについて」の判断において、直接の公法上の監督関係がない対象者への行為であっても、実質的な指揮監督権(特段の事情)があれば認められうること、(2)スポーツ事故における安全配慮義務・注意義務の具体化(予見可能性の基礎となる事実認定の厳格化)として引用すべきである。
事件番号: 昭和56(オ)539 / 裁判年月日: 昭和58年2月18日 / 結論: 破棄差戻
町立中学校の生徒が、放課後、体育館において、課外のクラブ活動中の運動部員の練習の妨げとなる行為をしたとして同部員から顔面を殴打されたなど判示のような事情のもとで生じた喧嘩により左眼を失明した場合に、同部顧問の教諭が右クラブ活動に立ち会つていなかつたとしても、右事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような…