市立中学校の一年生甲が、同校の課外クラブ活動としての柔道部の回し乱取り練習中に、二年生乙から大外刈りの技をかけられて負傷した場合において、甲が、右の事故当時、回し乱取り練習に通常必要とされる受け身を習得し、乱取り練習及び回し乱取り練習についてもある程度の経験を重ねており、既に回し乱取り練習において乙の練習相手をして特に危険が生じていなかったなど判示の事実関係の下においては、甲と乙との間に大きな技能格差があったとしても、顧問教諭において、甲が回し乱取り練習で乙の相手をするのに必要な受け身を確実に行う技能を有していたと判断し、甲を回し乱取り練習に参加させたことに、指導上の過失があったということはできない。
市立中学校の生徒が課外クラブ活動としての柔道部の回し乱取り練習中に負傷した事故について顧問教諭に指導上の過失がないとされた事例
国家賠償法1条1項
判旨
格闘技である柔道指導において、指導教諭は生徒を保護し事故を未然に防止すべき注意義務を負うが、適切な段階的指導を経て生徒が相応の受け身を習得していたと判断できる場合には、技能格差のある者と練習させたとしても直ちに義務違反とはならない。
問題の所在(論点)
部活動の指導教諭において、技能格差のある生徒同士を対戦させたことが、国家賠償法1条1項上の注意義務(安全配慮義務)に違反するか。
規範
学校教育(部活動を含む)における柔道指導者は、内在する危険から生徒を保護するため、事故発生を未然に防止すべき一般的注意義務を負う。具体的には、初心者を乱取り練習に参加させる際、有段者の技に対応し得る受け身を習得しているかを適切に見極める慎重な配慮が求められる。ただし、適切な段階的指導を行い、生徒の技能や過去の経験から必要な受け身の習得が認められる場合には、その判断に安全面での配慮に欠けるところがあったとはいえない。
重要事実
中学1年生の初心者B1は、経験豊富なF教諭の指導下で約3ヶ月間、段階的な受け身や乱取りの練習を重ねていた。B1は部外の道場にも通い、対外試合の経験もあった。事故当日、翌日の大会に向けた強化練習(回し乱取り)において、F教諭は有段者の2年生Eの相手にB1を指名した。Eが大外刈りをかけた際、タイミング良く決まりすぎて同体に倒れ込んだため、B1は受け身が取れずに後頭部を強打し、重度の後遺障害を負った。
あてはめ
F教諭は当初2週間を基礎練習に充て、自ら技をかけて習得度を確認するなど「柔道指導の手引」に準拠した適切な段階的指導を行っていた。B1は事故までに約3ヶ月の練習期間を経ており、過去にEと数十回乱取りを行い、大外刈りを受けても適切に受け身ができていた実績がある。これら諸点に照らせば、B1は回し乱取りに必要な受け身を習得していたと認められる。また、当日に疲労などの予見可能性を基礎付ける特別の事情も認められない。したがって、F教諭がB1に技能のあるEの相手をさせた判断に、配慮に欠ける点はなく過失は認められない。
結論
指導教諭に注意義務違反(過失)はなく、上告人(設置者)の損害賠償責任は否定される。
実務上の射程
部活動における指導者の過失の有無を判断する際のリーディングケースである。特に「段階的な指導(受け身の習得確認)」や「過去の練習実績」といった具体的なプロセスを重視しており、結果の重大性のみをもって過失を認定しない姿勢を示している。答案では過失の具体的予見可能性・回避可能性を論じる際、指導プロセスの適格性を評価する指標として用いる。
事件番号: 平成19(受)1180 / 裁判年月日: 平成20年4月18日 / 結論: 破棄自判
公立小学校3年の男子児童が,朝自習の時間帯に,教室後方にあるロッカーから落ちていた自分のベストを拾うため離席し,ほこりを払おうとしてこれを頭上で振り回したところ,ファスナー部分がちょうど席を立って後ろを振り向いた女子児童の右眼に当たり当該女子児童が負傷した場合において,(1)担任教諭は,事故当時,教室入口付近の自席に座…