自動車営業所の管理者に準ずる地位にある職員が、取外し命令を無視して組合員バッジの着用をやめないため、同人を通常業務である点呼執行業務から外し、営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令は、右作業が職場環境整備等のために必要な作業であり、従来も職員が必要に応じてこれを行うことがあったなど判示の事情の下においては、違法なものとはいえない。
管理者に準ずる地位にある職員が組合員バッジの取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令が違法とはいえないとされた事例
民法623条,民法709条,労働基準法13条
判旨
業務上の必要性があり、社会通念上相当な範囲内で行われた業務命令は、たとえ労働者の規律違反を契機としたものであっても、直ちに不当な目的があるとはいえず、業務命令権の濫用(不法行為)には当たらない。
問題の所在(論点)
規律違反を理由に、本来の職務とは異なる肉体的苦痛を伴う作業を命じることが、業務命令権の濫用として不法行為(民法709条)に該当するか。
規範
業務命令が権限の濫用として不法行為を構成するか否かは、①当該業務が労働契約の範囲内にあるか、②業務上の必要性が認められるか、③作業内容や方法が社会通念上相当な程度を超えて過酷であるか、④不当な目的(殊更に不利益を課す目的等)があるか、といった諸点を総合して判断する。
重要事実
国鉄(当時)の職員であった原告は、職場規律として禁止されていた組合バッジを着用したまま点呼業務を行おうとした。これに対し、所長らはバッジの取り外しを命じたが原告が拒否したため、本来の業務から外し、構内の火山灰除去作業に従事させた。この作業は肉体的苦痛を伴うが、職場環境整備のために従来も行われていた。原告は、この命令が懲罰的であり不法行為に当たると主張して損害賠償を求めた。
あてはめ
まず、火山灰除去は職場環境整備のために必要であり、原告の労働契約の範囲内であった。次に、バッジ着用は職場規律を乱すおそれがある行為であり、これを行う原告を本来業務(点呼)から外した措置には職場管理上の合理性がある。さらに、作業内容も社会通念上相当な範囲を超えて過酷とはいえず、作業方法等に特段の不当な指示もなかった。したがって、本件命令は職場規律維持のためのやむを得ない措置であり、殊更に不利益を課す等の不当な目的も認められない。
結論
本件各業務命令は不法行為を構成せず、上告人(管理職ら)は損害賠償責任を負わない。
実務上の射程
職場規律違反に対する「見せしめ」的配転や業務命令の適法性が争点となる事案において、業務上の必要性と態様の相当性を肯定する方向でのあてはめモデルとして活用できる。懲罰的性格が疑われる場合でも、管理上の必要性(規律維持)を対置させることで濫用を否定するロジックを示す判例である。
事件番号: 昭和62(オ)1047 / 裁判年月日: 平成2年11月8日 / 結論: 棄却
運航委託契約により船舶の運航を受託した者が、船舶を自己の業務の中に一体的に従属させ、船内事故の被害者で直接の契約関係にない船長に対し指揮監督権を行使する立場にあり、船長かち実質的に労務の供給を受けていたという事実関係の下においては、右受託者は、船長に対し信義則上の安全配慮義務を負う。