一 地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づく代位請求に係る当該職員に対する損害賠償請求訴訟において、右職員に損害賠償責任を問うことができるのは、先行する原因行為に違法事由が存する場合であつても、右原因行為を前提としてされた右職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる。 二 教育委員会が公立学校の教頭で勧奨退職に応じた者を校長に任命して昇給させるとともに同日退職を承認する処分をした場合において、右処分が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものといえないときは、知事がした右の者の昇給後の号給を基礎とする退職手当の支出決定は、財務会計法規上の義務に違反する違法なものとはいえない。
一 地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づく損害賠償請求訴訟における当該職員の財務会計上の行為の違法とこれに先行する原因行為の違法との関係 二 教育委員会が公立学校の教頭で勧奨退職に応じた者を校長に任命して昇給させるとともに同日退職承認処分をしたことに伴い知事がした昇給後の号給を基礎とする退職手当の支出決定の適否
地方自治法242条の2第1項4号,地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条3号
判旨
地方公共団体の長は、教育委員会の行った人事処分等が著しく合理性を欠き、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵がある場合でない限り、当該処分を尊重して財務会計上の措置を採る義務を負い、これに基づく支出決定は違法とならない。
問題の所在(論点)
教育委員会の行った人事処分等(原因行為)に基づき地方公共団体の長が支出決定(財務会計上の行為)を行った場合において、当該支出決定が財務会計法規上の義務に違反し、長が損害賠償責任を負うための要件が問題となる。
規範
地方教育行政の組織及び運営に関する法律の趣旨に照らせば、教育委員会は人事権等の広範な権限を有する独立の機関である一方、長は財務会計事務を掌理することで財政的基盤の確立を期する役割を担う。したがって、教育委員会の人事処分等について、長は、当該処分が著しく合理性を欠き、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存する場合でない限り、当該処分を尊重し、その内容に応じた財務会計上の措置を採るべき義務がある。また、住民訴訟(代位請求)において当該職員の賠償責任を問えるのは、先行する原因行為に違法がある場合であっても、原因行為を前提とした当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する場合に限られる。
重要事実
東京都教育委員会は、勧奨退職に応じた教頭職の職員29名に対し、退職日に校長に任命した上で2号給昇給させる「本件昇格処分」及び「本件退職承認処分」を行った。東京都知事(被上告人)は、この処分に基づき、昇給後の給与を基礎として算定した退職手当の支出決定を行った。これに対し、住民が知事の損害賠償責任を求めて住民訴訟を提起した。
あてはめ
本件において、東京都教育委員会が行った昇格処分及び退職承認処分は、関係条例及び規則の規定に基づいて行われたものである。これらの処分について、著しく合理性を欠き、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるとは認められない。そうであれば、予算執行権限を有する知事は、独立した機関である教育委員会の判断を尊重し、これに伴う財務会計上の措置を採るべき義務を負う。したがって、知事が行った本件支出決定は、職務上の財務会計法規に違反するものではないと評価される。
結論
本件支出決定は違法とはいえず、知事に損害賠償責任は認められない。上告棄却。
実務上の射程
原因行為(人事処分等)と財務会計行為(支出決定)の主体が異なる場合、財務会計権限を持つ者がどこまで原因行為の適法性を審査すべきかという「審査義務」の範囲を画した判例である。行政組織間の権限分配(教育行政の独立性)を重視し、明白な瑕疵がない限りは支出義務を肯定する。答案では、地方自治法242条の2第1項4号の責任を論じる際、原因行為の違法が直ちに支出の違法となるわけではないことを示す規範として活用する。
事件番号: 昭和58(行ツ)132 / 裁判年月日: 昭和61年2月27日 / 結論: 破棄差戻
一 普通地方公共団体の住民が地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく代位請求訴訟により同法二四三条の二第一項所定の職員に対し同項の規定による損害賠償を求める場合でも、同条三項所定の賠償命令があることを要しない。 二 普通地方公共団体に対するその長の損害賠償責任については、地方自治法二四三条の二の適用はない。