消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は,保証金から控除されるいわゆる敷引金の額が賃料月額の3.5倍程度にとどまっており,上記敷引金の額が近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して大幅に高額であることはうかがわれないなど判示の事実関係の下では,消費者契約法10条により無効であるということはできない。 (補足意見及び反対意見がある。)
消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約が消費者契約法10条により無効ということはできないとされた事例
消費者契約法10条,民法619条2項
判旨
居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条により無効とはならない。
問題の所在(論点)
居住用建物の賃貸借契約において、一定額を返還しないものとする「敷引特約」が、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)に抵触し無効となるか。
規範
1. 敷引特約は、任意規定である民法614条(賃料支払時期等)等に比して消費者の義務を加重するものであるから、消費者契約法10条前段に該当する。 2. もっとも、敷引金の額が契約書に明記され、賃借人がこれを明確に認識した上で契約を締結したならば、通常は双方に経済的合理性がある。したがって、敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情がない限り、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの(同条後段)とはいえない。
重要事実
1. 賃借人(被上告人)と賃貸人(上告人の前主)は、月額賃料17万5000円、保証金100万円(うち敷引金60万円)とする居住用建物の賃貸借契約を締結した。 2. 契約書には、保証金のうち敷引金60万円は返還されない旨が明確に記載されていた。 3. 本件契約は消費者契約法上の「消費者契約」に該当する。 4. 賃借人は約6年間居住した後に退去したが、賃貸人は敷引特約に基づき60万円を控除して保証金を返還したため、賃借人が特約の無効を訴えた。
あてはめ
1. 本件契約書には、敷引金の額およびそれが返還されないことが明確に読み取れる条項が存在した。そのため、賃借人は自らの金銭的負担を明確に認識した上で契約を締結したといえる。 2. 本件の敷引金(60万円)は月額賃料の約3.5倍にとどまっている。この程度の金額は、賃料等に照らして「高額に過ぎる」とはいえず、近傍同種物件の相場と比較しても大幅に高額であるとはうかがわれない。 3. 以上より、本件特約が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとは認められない。
結論
本件敷引特約は、消費者契約法10条により無効であるということはできない。
実務上の射程
本判決は、敷引金の具体的性質(通常損耗補修費か礼金か等)が明示されていなくても、総額が明記され、かつ賃料の3.5倍程度であれば有効性を認める判断基準を示した。ただし、金額が著しく高額な場合や、契約期間が極端に短い場合などには、個別事情により無効となる余地を残している。
事件番号: 平成9(オ)1446 / 裁判年月日: 平成10年9月3日 / 結論: 破棄自判
居住用の家屋の賃貸借における敷金につき、賃貸借契約終了時にそのうちの一定金額又は一定割合の金員を返還しない旨のいわゆる敷引特約がされた場合であっても、災害により家屋が滅失して賃貸借契約が終了したときは、特段の事情がない限り、右特約を適用することはできない。
事件番号: 平成22(オ)863 / 裁判年月日: 平成23年7月15日 / 結論: その他
1 消費者契約法10条は,憲法29条1項に違反しない。 2 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害…