居住用の家屋の賃貸借における敷金につき、賃貸借契約終了時にそのうちの一定金額又は一定割合の金員を返還しない旨のいわゆる敷引特約がされた場合であっても、災害により家屋が滅失して賃貸借契約が終了したときは、特段の事情がない限り、右特約を適用することはできない。
災害により居住用の賃借家屋が滅失して賃貸借契約が終了した場合におけるいわゆる敷引特約の適用の可否
民法619条2項
判旨
賃貸借契約における敷引特約は、災害による家屋滅失で契約が終了した場合には、特段の事情がない限り適用されず、賃貸人は敷引金を返還すべきである。これは、当事者が予期せぬ時期の終了についてまで不返還の合意があったとは通常解されないためである。
問題の所在(論点)
災害による家屋滅失という、当事者の予期しない事由によって賃貸借契約が終了した場合に、敷引特約に基づく不返還合意の効力が及ぶか(特約の解釈および適用範囲)。
規範
居住用家屋の賃貸借における敷引特約は、災害により賃借家屋が滅失して契約が終了した場合には、特段の事情がない限り適用されない。ただし、①礼金としての合意が明確に存する場合や、②その他敷引金の不返還を相当とするに足りる「特段の事情」がある場合はこの限りではない。
重要事実
賃貸人と賃借人との間で、居住用家屋の賃貸借契約が締結され、契約終了時に敷金から一定額を控除する「敷引特約」が合意された。その後、阪神・淡路大震災が発生し、賃借家屋が滅失したことにより賃貸借契約が終了した。賃借人は賃貸人に対し、敷引金相当額の返還を求めて提訴した。
あてはめ
本件では、震災という災害によって契約が終了しており、契約締結時にこのような事態に際しても敷引金を返還しないとする明確な合意があったとは認められない。また、敷引金の不返還を正当化するような特段の事情も存しない。敷引金は一般に、通常予定される期間の経過を前提とした性質を持つものであり、予期せぬ早期終了の場合にまで適用を認めることは当事者の合理的意思に反すると評価される。
結論
被上告人(賃貸人)は敷引特約を適用できず、上告人(賃借人)は敷引金の返還を請求することができる。
実務上の射程
契約書の条項解釈における「当事者の合理的意思」の探求のあり方を示す。敷引特約が消費者契約法等で無効とされる前段階の議論として、そもそも特約の射程が及ぶ事態かどうかを判断する際の基準となる。特に不可抗力による終了時における定型的な特約の適用制限を論じる際に有用である。
事件番号: 昭和42(オ)820 / 裁判年月日: 昭和43年1月25日 / 結論: 棄却
原判決判示のごとき事実関係のもとにおいては、「入居後の大小修繕は賃借人がする」旨の住居用家屋についての契約条項は、単に賃貸人が民法第六〇六条第一項所定の修繕義務を負わないとの趣旨にすぎず、賃借人が右家屋の使用中に生じる一切の汚損、破損個所を自己の費用で修繕し、右家屋を賃借当初と同一状態で維持すべき義務を負うとの趣旨では…