年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員は,次の(1)〜(5)など判示の事実関係の下では,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たる。 (1) 出演基本契約は,上記法人が,試聴会の審査の結果一定水準以上の歌唱技能を有すると認めた者を,原則として契約期間の全ての公演に出演することが可能である合唱団員として確保することにより,上記各公演を円滑かつ確実に遂行することを目的として締結されていた。 (2) 合唱団員は,出演基本契約を締結する際,上記法人から,あらかじめ上記法人が指定する全ての公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望され,合唱団員が公演への出演を辞退した例は,出産,育児や他の公演への出演等を理由とする僅少なものにとどまっていた。 (3) 出演基本契約の内容や,契約期間の公演の件数,演目,各公演の日程及び上演回数,これに要する稽古の日程,その演目の合唱団の構成等は,上記法人が一方的に決定していた。 (4) 合唱団員は,各公演及びその稽古につき,上記法人の指定する日時,場所において,その指定する演目に応じて歌唱の労務を提供し,歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱の内容について上記法人の選定する合唱指揮者等の指揮を受け,稽古への参加状況について上記法人の監督を受けていた。 (5) 合唱団員は,上記法人の指示に従って公演及び稽古に参加し歌唱の労務を提供した場合に,出演基本契約で定められた単価及び計算方法に基づいて算定された報酬の支払を受け,予定された時間を超えて稽古に参加した場合には超過時間により区分された超過稽古手当の支払を受けていた。
年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員が,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例
労働組合法3条,労働組合法7条
判旨
労働組合法上の労働者の判断にあたっては、基本契約や実際の運用において、業務の依頼に対して基本的に応ずべき関係にあるか、組織への組み入れ、指揮監督、時間的・場所的拘束、報酬の労務対価性等を総合考慮して判断すべきである。合唱団の契約メンバーが、公演実施に不可欠な労働力として組織に組み入れられ、一方的に決定された日程等に従い指揮監督下で労務を提供している場合、同法上の労働者に該当する。
問題の所在(論点)
年間シーズンの公演に出演する合唱団の「契約メンバー」が、労働組合法3条の「労働者」に該当するか。
規範
事件番号: 平成21(行ヒ)473 / 裁判年月日: 平成23年4月12日 / 結論: 破棄自判
住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する受託者は,次の(1)〜(5)など判示の事実関係の下では,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たる。 (1) 上記会社が行う住宅設備機器の修理補修等の業務の大部分は,能力,実績,経験等を基準に級を毎年定める制度等の下で…
労働組合法3条の「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいうが、特定の使用者との関係で「労働者」に該当するかは、以下の諸要素を総合考慮して判断する。(1)業務遂行に不可欠な労働力として組織に組み入れられているか、(2)契約内容が一方的に決定されているか、(3)業務の依頼に対して基本的に応ずべき関係(諾否の自由の制限)にあるか、(4)指揮監督下で労務を提供し、時間的・場所的拘束があるか、(5)報酬が労務提供の対価としての性質を有するか。
重要事実
新国立劇場の運営主体X(財団法人)は、合唱団員Aとの間で、1年間の「出演基本契約」を締結していた。契約上、Aは特定の公演に出演し稽古に参加する旨が定められ、各公演ごとに個別契約を結ぶ形式であった。Xは出演日程等を一方的に決定し、Aは指揮者の指示に従い歌唱労務を提供していた。Aが年間230日拘束され、約300万円の報酬を得ていたところ、Xが次期契約を不合格とし、組合との団体交渉を拒否したため、Aの労働者性が争点となった。
あてはめ
まず、Aは公演遂行に不可欠な労働力としてXの組織に組み入れられていた。次に、基本契約の内容はXが一方的に決定しており、交渉の余地はなかった。また、形式上は出演辞退が可能であっても、実際の運用では辞退例は極めて少なく、Aは基本的に出演依頼に応ずべき関係にあった。さらに、AはXが指定する日時・場所で、指揮者の監督下で歌唱労務を提供し、年間230日という時間的・場所的拘束も受けていた。そして、支払われる報酬は歌唱労務それ自体の対価であると解される。
結論
Aは、Xとの関係において労働組合法上の労働者に該当する。
実務上の射程
雇用契約によらない指揮監督下の労務提供(フリーランス、プロスポーツ選手、芸術家等)における団交権の有無を判断する際のリーディングケースである。実務上は、諾否の自由の有無だけでなく、組織への組み入れや契約内容の一方的決定という「経済的従属性」に配慮した判断枠組みを提示したものとして、あてはめにおいて各要素を網羅的に論じる必要がある。
事件番号: 昭和57(行ツ)158 / 裁判年月日: 昭和62年2月26日 / 結論: 破棄自判
飲食店営業を目的とする会社がその経営するキヤバレーにおいてバンドマスターと数人の楽団員で構成される楽団に長期間継続してダンス音楽等の演奏を行わせている場合において、バンドマスターも含め右楽団の楽団員が年間を通じ右キヤバレーに必要な楽団演奏者としてその営業組織に組み入れられ、右キヤバレーの営業に合わせ、右会社の指定する時…
事件番号: 昭和49(行ツ)112 / 裁判年月日: 昭和51年5月6日 / 結論: 棄却
民間放送会社とその放送管弦楽団員との間に締結された放送出演契約において、楽団員が、会社以外の放送等に出演することが自由とされ、また、会社からの出演発注に応じなくても当然には契約違反の責任を問われないこととされている場合であつても、会社が必要とするときは随時その一方的に指定するところによつて楽団員に出演を求めることができ…
事件番号: 平成22(行ヒ)489 / 裁判年月日: 平成24年2月21日 / 結論: 破棄差戻
音響製品等の設置,修理等を業とする会社と業務委託契約を締結し,顧客宅等を訪問して行う出張修理業務に従事する受託者につき,次の(1)〜(5)など判示の事情の下において,独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情の有無について十分に審理を尽くすことなく,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たらな…
事件番号: 昭和49(行ツ)94 / 裁判年月日: 昭和51年5月6日 / 結論: 棄却
油圧器の製造販売を目的とする会社が、油圧装置の設計図を作成させるため、社外の設計請負業者から長期にわたりその従業員の派遣を受け、これをいわゆる社外工として会社の作業場内で就労させている場合において、右請負業者が実質的には社外工の単なるグループにすぎないものであつて独立の使用者としての実体を有せず、各社外工はそれぞれ個人…