民間放送会社とその放送管弦楽団員との間に締結された放送出演契約において、楽団員が、会社以外の放送等に出演することが自由とされ、また、会社からの出演発注に応じなくても当然には契約違反の責任を問われないこととされている場合であつても、会社が必要とするときは随時その一方的に指定するところによつて楽団員に出演を求めることができ、楽団員は原則としてこれに応ずべき義務を負うという基本的関係が存在し、かつ、楽団員の受ける出演報酬が、演奏によつてもたらされる芸術的価値を評価したものというよりは、むしろ演奏自体の対価とみられるものであるなど判示のような事情があるときは、楽団員は、労働組合法の適用を受ける労働者にあたる。
民間放送会社の放送管弦楽団員が労働組合法上の労働者と認められた事例
労働組合法3条,労働組合法7条
判旨
労働組合法上の労働者性は、契約形式にかかわらず、事業組織への組み入れ、指揮監督、労務提供の対価性、最低生活保障的性質等の実態により判断される。放送管弦楽団員のように出演が個別発注形式であっても、実質的に拒否の自由がなく、報酬が労務提供の対価と認められる場合は労働者に該当する。
問題の所在(論点)
形式上は他社出演が自由であり、個別発注の諾否も文言上任意とされている放送管弦楽団員が、労働組合法3条(および7条2号)にいう「労働者」に該当するか。
規範
労働組合法3条の「労働者」とは、特定の使用者に対し従属的関係の下に労務を提供し、その対価として報酬を受けて生活する者をいう。その判断にあたっては、①事業組織への組み入れ(恒常的な労働力確保の対象か)、②仕事の依頼に対する諾否の自由の有無(実質的な指揮命令権の有無)、③業務遂行上の指揮監督の程度、④報酬の労務対価性(最低保障給的性質の有無)等を総合考慮すべきである。
重要事実
事件番号: 平成21(行ヒ)226 / 裁判年月日: 平成23年4月12日 / 結論: 破棄差戻
年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員は,次の(1)〜(5)など判示の事実関係の下では,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たる。 (1) 出演基本契約は,上記法人が,試聴会の審査の結果…
放送会社は楽団員と当初「専属出演契約」を締結していたが、後に他社出演を自由とする「自由出演契約」に切り替えた。同契約上、出演発注の諾否は文言上は自由とされ、出演報酬は不出演でも減額されない「契約金」と時間単価の「出演料」で構成されていた。しかし、実際には発注拒否は契約解除や更新拒否に繋がる恐れがあり、楽団員は原則として発注に応じるべき認識を持っていた。また、会社は演出につき楽団員に裁量を与えず、契約金は安定した収入を与える趣旨で支払われていた。
あてはめ
まず、会社が楽団員を事業組織に組み入れ、演奏労働力を恒常的に確保しようとする目的は専属契約時代と変わらない(①)。次に、文言上は諾否が自由でも、実際には出演義務を前提としており、会社が一方的に指定する出演に原則従うべき関係にある以上、会社は指揮命令権を有する(②、③)。さらに、楽団員は有名芸術家と異なり演出に裁量がないことから、報酬は芸術的価値への対価ではなく、演奏労務そのものの対価といえる。特に契約金は不出演でも支払われるものの、生活の資としての最低保障給の性質を有する(④)。
結論
本件楽団員は、自由出演契約の下においてもなお、会社との関係において労働組合法上の労働者に該当する。
実務上の射程
労働組合法上の労働者概念を広げたリーディングケース。請負や業務委託といった形式をとる「フリーランス」的な就労形態であっても、実質的な従属関係があれば労組法上の保護が及ぶことを示した。後の最高裁判断(INAX事件等)でも維持されている重要な規範である。
事件番号: 昭和57(行ツ)158 / 裁判年月日: 昭和62年2月26日 / 結論: 破棄自判
飲食店営業を目的とする会社がその経営するキヤバレーにおいてバンドマスターと数人の楽団員で構成される楽団に長期間継続してダンス音楽等の演奏を行わせている場合において、バンドマスターも含め右楽団の楽団員が年間を通じ右キヤバレーに必要な楽団演奏者としてその営業組織に組み入れられ、右キヤバレーの営業に合わせ、右会社の指定する時…
事件番号: 平成21(行ヒ)473 / 裁判年月日: 平成23年4月12日 / 結論: 破棄自判
住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する受託者は,次の(1)〜(5)など判示の事実関係の下では,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たる。 (1) 上記会社が行う住宅設備機器の修理補修等の業務の大部分は,能力,実績,経験等を基準に級を毎年定める制度等の下で…
事件番号: 昭和49(行ツ)94 / 裁判年月日: 昭和51年5月6日 / 結論: 棄却
油圧器の製造販売を目的とする会社が、油圧装置の設計図を作成させるため、社外の設計請負業者から長期にわたりその従業員の派遣を受け、これをいわゆる社外工として会社の作業場内で就労させている場合において、右請負業者が実質的には社外工の単なるグループにすぎないものであつて独立の使用者としての実体を有せず、各社外工はそれぞれ個人…
事件番号: 平成22(行ヒ)489 / 裁判年月日: 平成24年2月21日 / 結論: 破棄差戻
音響製品等の設置,修理等を業とする会社と業務委託契約を締結し,顧客宅等を訪問して行う出張修理業務に従事する受託者につき,次の(1)〜(5)など判示の事情の下において,独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情の有無について十分に審理を尽くすことなく,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たらな…