1 会社の代表取締役から実質的に経理担当の取締役に相当する権限を与えられ,会社の決算・確定申告の業務等を統括していた者は,会社から報酬を受けることも日常的に出社することもなかったとしても,法人税法(平成19年法律第6号による改正前のもの)164条1項にいう「その他の従業者」に当たる。 2 法人税ほ脱犯において,行為者が秘匿した所得を自ら領得する意図を有していたことは,法人税法(平成19年法律第6号による改正前のもの)164条1項にいう「業務に関して」の要件に影響を及ぼさない。
1 実質的に経理担当の取締役に相当する権限を与えられていた者が法人税法(平成19年法律第6号による改正前のもの)164条1項にいう「その他の従業者」に当たるとされた事例 2 法人税ほ脱犯において秘匿した所得を自ら領得する行為者の意図と法人税法(平成19年法律第6号による改正前のもの)164条1項にいう「業務に関して」の要件
法人税法(平成19年法律第6号による改正前のもの)164条1項
判旨
法人税法上の両罰規定における「その他の従業者」とは、実質的に経理担当取締役に相当する権限を与えられ業務を統括する者を指し、行為者が所得を領得する意図を有していても「業務に関して」の要件を満たす。
問題の所在(論点)
法人税法164条1項の「その他の従業者」の意義、および行為者に私益を図る目的がある場合の「業務に関して」の該否。
規範
1. 法人税法(平成19年改正前)164条1項にいう「その他の従業者」とは、正式な役職や報酬、出勤状況等の形式的事実に拘わらず、代表取締役から実質的に特定の業務(決算・確定申告等)を統括する権限を与えられている者をいう。2. 「業務に関して」とは、法人の業務を執行する過程で行われることを指し、行為者が法人の所得を自ら領得する個人的な意図を有していたとしても、その意図は当該要件の充足を左右しない。
重要事実
被告会社は自動車販売等を目的とする法人であり、被告人Bはその代表取締役であった。Cは「社長付」という非公式な肩書を有し、報酬受領や日常的な出社もなかったが、Bから経理担当取締役に相当する権限を与えられ、決算や確定申告業務を統括していた。Cは、社員Dらと共謀し、架空の直接材料費を計上する等の方法で所得を秘匿し、3事業年度で計10億円余りの法人税を免れた。被告人側は、Cが従業員に当たらないこと、及びCが秘匿所得を領得しており不正経理はその隠蔽工作であるから「業務に関して」なされたものではないことを主張した。
あてはめ
Cは被告人Bから実質的に経理担当取締役に相当する権限を与えられ、決算・確定申告業務を統括していた。したがって、形式的な肩書や勤務実態に拘わらず「その他の従業者」に該当する。また、本件の不正経理の指示は、被告会社の決算業務を統括する過程で行われたものであり、客観的に法人の業務執行としてなされている。Cが領得の意図という個人的動機を有していたとしても、それは「業務に関して」という客観的な性質を否定するものではない。よって、両罰規定の適用は免れない。
結論
Cは「その他の従業者」に当たり、その行為は「業務に関して」行われたといえるため、被告会社に法人税法上の両罰規定を適用した判断は正当である。
実務上の射程
法人の役員や従業員が、法人の所得を隠匿して私利を図る(横領・背任的行為を伴う)脱税行為を行った場合であっても、それが法人の業務遂行の過程で行われたものである限り、法人側の処罰を基礎づける「業務性」が肯定されることを示した。法人の管理監督責任を広く認める実務を支える判断である。
事件番号: 平成10(あ)961 / 裁判年月日: 平成14年10月15日 / 結論: 棄却
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事件番号: 平成15(あ)884 / 裁判年月日: 平成16年1月20日 / 結論: 棄却
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