土地の賃貸人及び転貸人が,転借人所有の地上建物の根抵当権者に対し,借地権の消滅を来すおそれのある事実が生じたときは通知する旨の条項を含む念書を差し入れた場合において,次の(1)〜(3)など判示の事実関係の下では,賃貸人及び転貸人は,上記念書の内容等につき根抵当権者から直接説明を受けておらず,上記念書を差し入れるに当たり根抵当権者から対価の支払を受けていなかったとしても,地代不払の事実を土地の転貸借契約の解除に先立ち根抵当権者に通知する義務を負い,その不履行を理由とする根抵当権者の損害賠償請求が信義則に反するとはいえない。 (1) 上記念書には,地代不払など借地権の消滅を来すおそれのある事実が生じた場合には,賃貸人及び転貸人が根抵当権者にこれを通知し,借地権の保全に努める旨が明記されていた。 (2) 賃貸人及び転貸人は,事前に上記念書の内容を十分に検討する機会を与えられてこれに署名押印又は記名押印をした。 (3) 転貸人は不動産の賃貸借を目的とする会社であり,賃貸人は転貸人の代表者及びその子である。 (補足意見がある。)
土地の賃貸人及び転貸人が,転借人所有の地上建物の根抵当権者に対し,借地権の消滅を来すおそれのある事実が生じたときは通知する旨の条項を含む念書を差し入れた場合において,賃貸人及び転貸人が地代不払の事実を土地の転貸借契約の解除に先立ち根抵当権者に通知する義務を負い,その不履行を理由とする根抵当権者の損害賠償請求が信義則に反するとはいえないとされた事例
民法1条2項,民法415条,民法第3編第2章 契約
判旨
土地賃借人が所有する地上建物への抵当権設定を賃貸人が承諾し、その際、地代不払等の借地権消滅を来すおそれのある事実が生じた場合の通知義務等を定めた「念書」を差し入れた場合、当該通知義務は特段の事情がない限り法的義務であり、義務不履行による損害賠償責任を負う。
問題の所在(論点)
賃貸人が抵当権者に対して差し入れた、地代不払等の事実を通知する旨の念書(事前通知条項)に基づく義務が、法的拘束力を有する債務不履行責任の根拠となるか。
規範
賃貸人らが、抵当権者に対し、借地権の消滅を来すおそれのある事実(地代不払等)が生じた場合に通知し借地権の保全に努める旨の条項を含む「念書」を差し入れた場合、賃貸人らは当該事実を遅くとも解除の前までに通知する法的義務を負う。この義務は、通知義務の趣旨を理解し得る状況下で署名押印等がなされた以上、対価の支払や直接の説明がなくても成立する。ただし、損害賠償請求が信義則に反すると認められる場合はこの限りではない。
事件番号: 平成21(受)1539 / 裁判年月日: 平成22年7月9日 / 結論: 破棄差戻
本訴の提起が不法行為に当たることを理由とする反訴について,本訴に係る請求原因事実と相反することとなる本訴原告自らが行った事実を積極的に認定しながら,本訴原告において記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをしていたことなどの事情について認定説示することなく,本訴の提起が不法行為に当たることを否定した原審の判断には,違法があ…
重要事実
上告人ら(賃貸人)は、転借人Aが地上建物に被上告人(銀行)の根抵当権を設定する際、地代不払等の事実が生じた場合に通知する旨の「事前通知条項」を含む念書に署名押印して差し入れた。その後、Aに地代不払が生じたが、上告人らは通知せず転貸借契約を解除。建物は収去され、根抵当権は消滅した。銀行は、通知義務違反に基づく損害賠償を請求した。なお、念書の差し入れに際し対価の支払や銀行からの直接説明はなく、念書の写しも交付されていなかった。
あてはめ
上告人らは不動産賃貸業を営む会社等であり、念書の内容を事前に検討し修正を求める機会も得ていたことから、通知義務の趣旨を理解していたといえる。したがって、念書差し入れにより法的義務を負う合意が成立したと解される。対価の不在や説明の欠如は義務の成立を妨げない。また、銀行による損害賠償請求が直ちに信義則に反するともいえない。もっとも、銀行側にも担保管理上の過失が認められるため、過失相殺(8割)を認めるのが相当である。
結論
上告人らは、通知義務不履行に基づき、被上告人が被った損害(建物収去による担保価値喪失分)を賠償する責任を負う(ただし、8割の過失相殺が適用される)。
実務上の射程
金融実務における「念書」等の差し入れが、単なる道義的義務ではなく法的義務(契約上の債務)として構成されることを示した。答案上は、合意の成否を判断する際に、差し入れの経緯や当事者の属性、内容の検討機会の有無等の諸般の事情から「義務を負う趣旨の合意」を認定する。また、賃貸人の一方的な不利益とならないよう、信義則や過失相殺による調整を行う枠組みとして活用する。
事件番号: 平成7(オ)160 / 裁判年月日: 平成11年4月22日 / 結論: その他
甲と乙とが乗車中の自動二輪車の交通事故により死亡した甲の相続人が,捜査機関が甲を運転者と認定したことを知りながら,乙を運転者と主張して乙に対して損害賠償請求訴訟を提起した場合であっても,右主張に沿う事故直前の目撃者らの供述があり,現場の状況,自動二輪車の損傷状況などの客観的証拠からは運転者を特定することが必ずしも容易で…
事件番号: 平成19(受)102 / 裁判年月日: 平成21年1月19日 / 結論: その他
ビルの店舗部分を賃借してカラオケ店を営業していた賃借人が,同店舗部分に発生した浸水事故に係る賃貸人の修繕義務の不履行により,同店舗部分で営業することができず,営業利益相当の損害を被った場合において,次の(1)〜(3)などの判示の事情の下では,遅くとも賃貸人に対し損害賠償を求める本件訴えが提起された時点においては,賃借人…
事件番号: 平成9(オ)411 / 裁判年月日: 平成11年10月26日 / 結論: その他
名誉毀損の行為者において刑事第一審の判決を資料としてその認定事実と同一性のある事実を真実と信じて摘示した場合には、特段の事情がない限り、摘示した事実を真実と信ずるについて相当の理由がある。
事件番号: 平成16(受)519 / 裁判年月日: 平成18年4月14日 / 結論: 破棄自判
本訴及び反訴が係属中に,反訴原告が,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは,異なる意思表示をしない限り,反訴を,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分を反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更するものとして,許される。