ビルの店舗部分を賃借してカラオケ店を営業していた賃借人が,同店舗部分に発生した浸水事故に係る賃貸人の修繕義務の不履行により,同店舗部分で営業することができず,営業利益相当の損害を被った場合において,次の(1)〜(3)などの判示の事情の下では,遅くとも賃貸人に対し損害賠償を求める本件訴えが提起された時点においては,賃借人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を執ることなく発生する損害のすべてについての賠償を賃貸人に請求することは条理上認められず,賃借人が上記措置を執ることができたと解される時期以降における損害のすべてが民法416条1項にいう通常生ずべき損害に当たるということはできない。 (1) 賃貸人が上記修繕義務を履行したとしても,上記ビルは,上記浸水事故時において建築から約30年が経過し,老朽化して大規模な改修を必要としており,賃借人が賃貸借契約をそのまま長期にわたって継続し得たとは必ずしも考え難い。 (2) 賃貸人は,上記浸水事故の直後に上記ビルの老朽化を理由に賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしており,同事故から約1年7か月が経過して本件訴えが提起された時点では,上記店舗部分における営業の再開は,実現可能性の乏しいものとなっていた。 (3) 賃借人が上記店舗部分で行っていたカラオケ店の営業は,それ以外の場所では行うことができないものとは考えられないし,上記浸水事故によるカラオケセット等の損傷に対しては保険金が支払われていた。
店舗の賃借人が賃貸人の修繕義務の不履行により被った営業利益相当の損害について,賃借人が損害を回避又は減少させる措置を執ることができたと解される時期以降に被った損害のすべてが民法416条1項にいう通常生ずべき損害に当たるということはできないとされた事例
民法416条1項,民法606条1項
判旨
賃貸借物件の損害により営業が不能となった場合でも、賃借人は損害の拡大を防止すべき信義則上の義務を負う。そのため、修繕が困難で営業再開の目途が立たない状況下では、速やかに契約を解除して他所に移転する等の措置を講じるべきであり、これを怠って生じた無限定な休業損害の賠償請求は認められない。
問題の所在(論点)
賃貸人の修繕義務違反により営業不能となった場合、賃借人が契約を解除せずに放置した期間の全損害について、相当因果関係が認められるか。また、賃借人に損害軽減義務が認められるか。
規範
債務不履行に基づき生じた損害につき、債権者が損害の拡大を防止すべき適切な措置を執ることができたと認められる場合には、その措置を執ったならば拡大しなかったであろう損害については、債務不履行と相当因果関係のある損害とは認められないか、あるいは信義則上、賠償額の算定に際して考慮されるべきである(損害軽減義務の法理)。
事件番号: 昭和41(オ)215 / 裁判年月日: 昭和41年6月24日 / 結論: 棄却
土地の不法占拠により土地所有者の蒙る損害額を、右土地を他に賃貸することにより通常得べかりし賃料相当額にあたる、と判断した点に違法はない。
重要事実
賃借人Xは、賃貸人Yからビルの一部を借りてカラオケ店を経営していたが、度重なる浸水被害により営業不能となった。Yは建物の抜本的な修繕工事(排水ポンプ更新等)を行わず放置したため、Xは営業再開が困難となった。しかしXは、浸水発生から約2年半もの間、契約を解除せず他所への移転も行わないまま、その期間全体の営業利益相当額(約3600万円)を損害賠償として請求した。
あてはめ
本件浸水被害は修繕が困難で、早期の営業再開が見込めない状況にあった。Xは浸水発生から長期間が経過しており、営業再開の目途が立たないことを認識できたはずである。このような場合、賃借人としては速やかに本件契約を解除し、代替店舗を確保するなどして損害を最小限に抑えるべき信義則上の義務を負う。Xが漫然と契約を維持し、損害が拡大するに任せたことは、法的に保護されるべき範囲を超えている。したがって、移転に要する合理的期間(本件では1年程度)を超えた分の休業損害は、Yの義務違反と相当因果関係があるとはいえない。
結論
損害賠償請求は、営業不能となった時点から他所へ移転して営業を再開するに足りる合理的な期間(約1年間)の範囲に限定して認められる。それを超える期間の休業損害については、請求を棄却すべきである。
実務上の射程
損害賠償の算定において、債権者側の「損害軽減義務」を明示的に認めた重要な判例。答案では、相当因果関係の範囲(416条)を限定する論理、または過失相殺(418条)の類推適用・信義則上の基礎として引用する。
事件番号: 平成3(オ)1495 / 裁判年月日: 平成5年11月25日 / 結論: 破棄差戻
いわゆるファイナンス・リース契約において、利用者がリース物件の引渡しを受けていないのにリース業者にこれを受領した旨の受領書を交付し、その後リース業者が販売店からその経営不振を理由にリース物件を引き揚げたなど判示の事実関係の下においては、利用者は、リース物件を使用することができなかったからといって、リース料の支払義務を免…
事件番号: 令和6(受)1046 / 裁判年月日: 令和8年1月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】福島第一原発事故の区域外避難者に対し、国から使用許可を受けた自治体が、明渡請求権を代位行使することは、セーフティネット契約締結の見込みが潰えた等の事情があれば、権利の濫用等に当たらず適法である。 第1 事案の概要:福島第一原発事故の避難者(上告人)に対し、福島県(被上告人)は東京都を通じて国家公務…
事件番号: 昭和39(オ)651 / 裁判年月日: 昭和41年11月10日 / 結論: 棄却
控訴審口頭弁論において、原審口頭弁論の結果を陳述するに際し、「第一審判決事実摘示のとおり陳述する」旨弁論したときは、第一審の口頭弁論で主張した事項であつて、第一審判決の事実摘示に記載されていない事実は、控訴審口頭弁論では陳述されなかつたことになる。
事件番号: 平成21(受)1661 / 裁判年月日: 平成22年9月9日 / 結論: 棄却
土地の賃貸人及び転貸人が,転借人所有の地上建物の根抵当権者に対し,借地権の消滅を来すおそれのある事実が生じたときは通知する旨の条項を含む念書を差し入れた場合において,次の(1)〜(3)など判示の事実関係の下では,賃貸人及び転貸人は,上記念書の内容等につき根抵当権者から直接説明を受けておらず,上記念書を差し入れるに当たり…