銃刀法違反被告事件につき,けん銃等所持の共謀が認められないとした第1審判決及びこれを是認した原判決に重大な事実誤認の疑いがあるとして破棄し,事件を第1審に差し戻した事例
刑訴法411条3号,刑法60条
判旨
暴力団の抗争において、配下組員が対立組織の会長を殺害した際、上位組織の組長が殺害計画を事前に認識し、これを当然のこととして容認(共謀)していたと推認される場合には、当該組長は殺人罪の共同正犯としての責任を免れない。
問題の所在(論点)
対立する暴力団員による殺害事件において、現場に不在であり、かつ具体的な殺害指示を出した直接の証拠がない上位組織の組長について、殺人罪(刑法199条、60条)の共同正犯が成立するか。特に、状況証拠から殺害の「共謀」を推認できるかが問題となる。
規範
共同正犯の成立に不可欠な共謀は、必ずしも明示的な合意を要しない。特定の犯罪が行われることを事前に認識し、これを自己の意図に沿うものとして容認した上で、配下組員等に実行を委ねるという黙示的な意思の合致があれば足りる。この際、組織の構造、対立の背景、事件前後の組織的な動静、犯行現場等における警護体制や連絡状況等の間接事実を総合考慮し、経験則に照らして推認することが許される。
重要事実
1.対立組織との間で激しい抗争状態にあり、最高幹部が襲撃される等の重大な危機的状況にあった。2.組長自身も襲撃を受ける可能性を認識し、移動の際には多数の配下組員が武器を携行して同行する厳重な警護体制(ボディーガード)を敷いていた。3.事件直前、組長が滞在するホテル周辺には多数の組員が配置され、情報の収集や警戒に当たっていた。4.実行犯らは、組長の動静や対立組織の動きを密接に把握できる立場にあり、組織の意思決定と無関係に独断で行動したとは考えがたい状況にあった。
あてはめ
事件番号: 平成14(あ)164 / 裁判年月日: 平成15年5月1日 / 結論: 棄却
暴力団組長である被告人が,自己のボディガードらのけん銃等の所持につき,直接指示を下さなくても,これを確定的に認識しながら認容し,ボディガードらと行動を共にしていたことなど判示の事情の下においては,被告人は前記所持の共謀共同正犯の罪責を負う。 (補足意見がある。)
まず、本件抗争の激化により、組長は対立組織による襲撃の危険を具体的に予見し、自らの安全確保のために配下組員を組織的に動員していた。このような状況下で、配下組員が対立組織の会長を殺害することは、組長の安全を確保し組織の威信を守るという目的に合致する行動である。また、ホテル内やその周辺での組員らの配置、警護の密度、連絡体制を総合すれば、組長がこれら一連の動きを把握していないとは考えられない。したがって、組長は配下組員による殺害計画を具体的に予見・認識しながら、これを自らの目的に沿うものとして当然に受け入れ、容認していたと評価できる。これは、黙示的な意思の合致(共謀)があったと解するのが相当である。
結論
被告人は殺人の共同正犯としての罪責を負う。原審の無罪判決は破棄されるべきである。
実務上の射程
暴力団特有の組織性を背景とした「黙示的な共謀」の推認手法を確立した事例であり、直接証拠が乏しい首領の刑事責任を追及する実務上の指針となる。ただし、あくまで具体的状況証拠の積み重ね(警護体制や抗争の推移等)に基づく判断である点に留意が必要である。
事件番号: 平成16(あ)807 / 裁判年月日: 平成17年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴力団組長が、同行する配下組員らの拳銃等携帯を概括的・確定的に認識・認容していた場合、実質的にこれらを持たせていたと評し得、拳銃等の所持について共謀共同正犯が成立する。 第1 事案の概要:暴力団の組長である被告人が、移動に際して配下の組員らを同行させていた。その際、一部の組員らが被告人を警護する目…
事件番号: 平成21(あ)68 / 裁判年月日: 平成24年10月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴力団組長による3件の殺人等につき、組織的な犯行であること、3名の生命を奪った結果の重大性、首謀者としての責任の重さを重視し、被害者遺族への被害弁済等の有利な事情を最大限考慮しても、死刑の選択はやむを得ない。 第1 事案の概要:暴力団組長である被告人は、配下組員と共謀し、(1)保険金詐欺の口封じ、…
事件番号: 平成18(あ)2156 / 裁判年月日: 平成21年6月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴力団間の抗争に端を発し、一般客のいるレストランで拳銃を用いて2名を殺害した事案において、犯行の計画性、残忍性、一般市民を巻き込む危険性の高さ等の諸事情を考慮し、死刑判決を維持した。 第1 事案の概要:暴力団構成員である被告人は、他団体からの高額な金銭要求に対し、組織の面目を保つため相手方の殺害を…
事件番号: 平成20(あ)2064 / 裁判年月日: 平成23年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴力団間の抗争に端を発し、一般客の存在する飲食店において敢行された射殺事件について、被告人が謀議に積極的に加わり実行役も果たしている場合、犯行後の自首や謝罪等の情状を考慮しても、死刑の選択はやむを得ない。 第1 事案の概要:暴力団組長である被告人は、他団体との金銭トラブルを端に、相手方を「皆殺しに…