暴力団組長である被告人が,自己のボディガードらのけん銃等の所持につき,直接指示を下さなくても,これを確定的に認識しながら認容し,ボディガードらと行動を共にしていたことなど判示の事情の下においては,被告人は前記所持の共謀共同正犯の罪責を負う。 (補足意見がある。)
暴力団組長である被告人が自己のボディガードらのけん銃等の所持につき直接指示を下さなくても共謀共同正犯の罪責を負うとされた事例
刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法3条1項,銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第1項,銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項
判旨
暴力団組長が、配下のボディガードらが自身の警護のために拳銃等を所持していることを確定的に認識し、これを当然のこととして受け入れ、ボディガードらもその意思を察していた場合には、黙示的な意思の連絡があり、共謀共同正犯が成立する。
問題の所在(論点)
直接の所持行為を行っていない被告人に、銃砲刀剣類所持等取締法違反(拳銃等加重所持)の共謀共同正犯(刑法60条)が成立するか。特に、具体的な指示や明示的な謀議がない状況での「黙示的な意思の連絡」の成否が問題となった。
規範
実行行為に直接関与しない者であっても、特定の犯罪を共同して実行する意思の連絡(共謀)があり、それに基づき一部の者が実行行為に及んだ場合には、共謀共同正犯が成立する。この「意思の連絡」は、明示的なものに限られず、互いに他人の行為を利用して自己の意思を達成しようとする黙示的な合意であっても足りる。特に、指揮命令権限を有する上位者と、その影響下にある実行者との関係においては、上位者が犯罪事実を確定的に認識しつつ、自己の利益のために容認・放任している状況があれば、正犯意思を基礎付ける重要な要素となる。
重要事実
暴力団三代目A組組長の被告人は、東京での遊興に際し、配下のボディガード(C)ら4名を含む一行で移動していた。Cらは、被告人を襲撃から守るため、東京側の関係者に用意させた拳銃5丁を分乗する車内等で携帯し、被告人の至近距離で警護にあたった。被告人は、Cらが警護のため拳銃を携行していることを確定的に認識していたが、自らもボディガード経験があり拳銃所持を当然として受け入れ、指示命令できる立場にありながらこれを認容していた。Cらも被告人のこの意思を察していた。警察の捜索により、被告人車の直後を走行していた車内等から拳銃等が発見・押収された。
事件番号: 平成18(あ)1124 / 裁判年月日: 平成21年10月19日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】暴力団の抗争において、配下組員が対立組織の会長を殺害した際、上位組織の組長が殺害計画を事前に認識し、これを当然のこととして容認(共謀)していたと推認される場合には、当該組長は殺人罪の共同正犯としての責任を免れない。 第1 事案の概要:1.対立組織との間で激しい抗争状態にあり、最高幹部が襲撃される等…
あてはめ
まず、被告人は配下3100名を抱える組長であり、Cらを指揮命令できる圧倒的に優位な支配的地位にあったといえる。次に、被告人はCらが拳銃を携行していることを「概括的とはいえ確定的に認識」しており、これを当然のこととして「認容」していた。対するCらも、被告人のこの意思を察して警護にあたっていた。このような主観的態様は、互いの行為を利用し合う黙示的な意思の連絡があったと評価できる。さらに、被告人は警護により自己の身辺の安全を確保するという直接的な利益を得ている。以上を総合すると、実質的には被告人がCらに拳銃等を所持させていたと評し得るため、正犯意思も認められる。
結論
被告人とCらとの間に拳銃等の所持につき黙示的な意思の連絡が認められ、共謀共同正犯が成立する。
実務上の射程
組織犯罪において、トップの明示的な指示(「持って行け」等)が立証できない場合でも、状況証拠から「確定的な認識」と「認容」が認められれば共謀を肯定できるとする強力な判例である。答案では、被告人の地位、認識の程度(認容の有無)、得られる利益(正犯意思)の三要素を中心に構成することが有効である。なお、本件は現場に居合わせた事例であるが、補足意見によれば現場不在の共謀共同正犯の理論とも親和性がある。
事件番号: 平成16(あ)807 / 裁判年月日: 平成17年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴力団組長が、同行する配下組員らの拳銃等携帯を概括的・確定的に認識・認容していた場合、実質的にこれらを持たせていたと評し得、拳銃等の所持について共謀共同正犯が成立する。 第1 事案の概要:暴力団の組長である被告人が、移動に際して配下の組員らを同行させていた。その際、一部の組員らが被告人を警護する目…
事件番号: 平成15(あ)163 / 裁判年月日: 平成17年11月8日 / 結論: 棄却
反目状態にあった男とのけんか抗争等に備える目的で自車のダッシュボード内に入れておいた刃物を車外に持ち出した後に路上で携帯する行為は,同人運転の自動車に意図的に衝突されて自車が転覆し,車外にはい出す際に護身用にズボンのポケットに上記刃物を移し替えたという事情があることを考慮しても,その違法性が阻却される余地はない。
事件番号: 昭和24(れ)1056 / 裁判年月日: 昭和24年8月18日 / 結論: 棄却
一 暴力行爲等處罰ニ關スル法律第一條にいわゆる「多衆ノ威力ヲ示シ」というのは、同條所定の罪の實行行爲擔當者が、多衆を背景にして其の威力を相手方に示すことを必要とする。 二 銃砲等不法所持罪の成立に必要な犯意は、被告人が日本人であることを認識し乍ら、これを自己の實力支配内に置くを以つて足り、その所持の動機の如何は犯意の存…
事件番号: 平成20(あ)2064 / 裁判年月日: 平成23年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴力団間の抗争に端を発し、一般客の存在する飲食店において敢行された射殺事件について、被告人が謀議に積極的に加わり実行役も果たしている場合、犯行後の自首や謝罪等の情状を考慮しても、死刑の選択はやむを得ない。 第1 事案の概要:暴力団組長である被告人は、他団体との金銭トラブルを端に、相手方を「皆殺しに…